PFM制御DCDCコンバータの原理とPWM制御との違い
PFM制御とは、Pulse Frequency Modulation(パルス周波数変調)の略で、オン時間、またはオフ時間を固定した状態でスイッチング周波数を変化させることでDUTYを変化させ、所望の出力電圧値に制御するスイッチングレギュレータの方式です。
PFMには以下の3つの制御方式があります。
- 固定オン時間制御
- 固定オフ時間制御
- 電流モードPFM制御
これら3つのPFM制御方式の動作原理の説明と、PWMとの違い、メリット、デメリットについて解説していきます。
固定オン時間制御
PFM制御で最もよく使われるのが固定オン時間制御方式です。
Constant On Timeを略して、COT制御とも呼ばれます。
>>各メーカーのCOT制御DCDCコンバータの性能比較を見る
オン時間を固定しておき、DUTYを大きくしたいときは周波数を上げ、DUTYを小さくしたいときは周波数を下げる制御を行います。
入力電圧によって下図のように周波数が変化します。
条件① VIN=18V、VOUT=3.3V、固定オン時間=1us
スイッチング周波数は183kHzになっています。
条件② VIN=6V、VOUT=3.3V、固定オン時間=1us
スイッチング周波数は564kHzになっています。
COT制御ICの内部回路
下図はCOT制御のDCDCコンバータICの内部回路です。
PWM制御に比べると回路はシンプルなものになります。
エラーアンプもなく、出力電圧を基準電圧とコンパレータで比較するだけで出力電圧を制御しています。
コンパレータで電圧を比較させやすくするため、フィードバック電圧にスロープを重畳させます。
スロープはRC回路を使ってスイッチング波形をフィードバック電圧にカップリングさせて発生させます。
固定オン時間は簡易的にRC回路で決めていますが、実際の製品では電流源とコンデンサで時定数を決め、さらに電流源の値をトリミングしているものが多いと思います。
シミュレーション用のLTspice回路図は以下よりダウンロード頂けます。
COT制御の動作原理
スロープを重畳させたフィードバック電圧が基準電圧以下まで低下するとコンパレータが反転し、トップFETをオンさせます。
固定オン時間が経過すると、フリップフロップのリセット端子にHiが出力されトップFETがオフされます。
固定オフ時間制御
固定オン時間制御とは逆で、オフ時間を固定して周波数を変化させることで電圧を制御します。
固定オン時間制御と論理が逆になるだけで、基本的な制御方法は同じになります。
DCDCコンバータICで採用されている製品は少ないでしょう。
電流モードPFM制御
コイルのピーク電流が設定した閾値を超えるとオフし、出力電圧が低下すると再びオンさせる制御を行います。
この制御は通常の電源制御として採用されることは少なく、軽負荷時の効率改善のための動作モードとして搭載されていることがほとんどです。
DCDCコンバータの軽負荷時の効率改善モードは、アナログデバイセズ(旧リニアテクノロジー)のバーストモードが初めでした。
バーストモードの特許を使わずに軽負荷時の効率改善をするために使われ出したのが、この電流モードPFM制御でした。
現在でも、軽負荷時の効率改善機能として広く使われています。
電流モードPFM制御の内部回路
下図が電流モードPFM制御DCDCコンバータICの内部回路です。
かなりシンプルな回路ですが、実際の製品では単体では使われず、PWM方式のスイッチングレギュレータに搭載されてスタンバイ時にPWM⇒PFM制御部に切り替わるものが多いです。
上記回路では省いていますが、低消費電流にするため、スイッチングFETがオフの期間はフィードバック電圧をモニタしている回路以外は停止していて、電圧がVrefまで低下すると回路がウェイクアップしてスイッチングFETをオンさせるという動きになります。
シミュレーション用のLTspice回路図は以下よりダウンロード頂けます。
電流モードPFM制御の動作原理
COTのようにスロープは付加せず、出力のリップルをスロープとして使います。
コンパレータの反応を良くするため、出力電圧の分圧抵抗の上側と並列にスピードアップコンデンサを挿入しています。
フィードバック電圧が基準電圧:Vrefより低下すると、フリップフロップのセット端子がHiになりスイッチングFETがオンします。
スパイク電流による誤動作防止のためのブランキング時間経過後、コイル電流がしきい値を上回るとフリップフロップのリセット端子がHiになりスイッチングFETがオフします。
動作を分かりやすくするため負荷電流が多い条件で解説しましたが、低消費電流モードの場合は負荷電流が数mA程度を想定しており、不連続モードで動作します。
下図のようにオンDUTYもかなり小さく、ほとんどの期間で回路をオフ状態とし、消費電流を低減しています。
PWM制御とPFM制御の違い
PWM制御とPFM制御の違いをまとめると以下のようになります。
項目 | PWM制御 | PFM制御 |
---|---|---|
概要 | 周波数は固定でDUTY比を制御 | オン時間を固定し、周波数を制御 |
応答性 | × | ○ |
ノイズ性能 | ○ | × |
位相補償 | × | ○ |
設計難易度 | × | ○ |
サイズ | × | ○ |
コスト | × | ○ |
応答性
PFMの場合、エラーアンプが無くフィードバックループ内の遅延が少ないため、応答性が高くなります。
下図のように負荷急変動によるアンダーシュートに対しても、急激にスイッチング周波数を上げて落ち込みを防ぐことができます。
ただし、PFMはオープンループゲインが低いため、反応を開始するまでに必要な電圧差が大きくなってしまいます。
その結果、応答性は低いがゲインの高いPWM制御のDCDCコンバータと、出力変動量では大きな差が無い場合が少なくありません。
ノイズ性能
PFMは入出力の条件によって周波数が変動するため、ノイズ対策が難しくなります。
特に車載製品ではラジオの受信周波数の合間を縫ってスイッチング周波数を設定する必要があるため、PFMでは対応できない場合が多くなります。
位相補償
PFMは位相補償が不要と思われがちですが、そうではありません。
エラーアンプが無いため位相補償をする箇所が少ないのと、ゲインが低いために発振することが少ないため、実質位相補償が不要と思われているのです。
実際、スロープを設定しているRC回路に極端な定数を使わない限りは発振することはないでしょう。
設計難易度、サイズ、コスト
前出の回路図を見て頂ければ分かる通り、PWMに比べるとPFM制御の回路はシンプルで、構成部品も少なくなります。
したがって、設計難易度は比較的低く、サイズ、コストも抑えることができます。