過電流保護の種類と動作原理
レギュレータやパワースイッチなどの出力が短絡した際の保護として、過電流保護回路が搭載されています。
過電流保護回路の仕組みは、電流制限値を設定し、それ以上の電流が流れないようにすることでデバイスの破壊を防ぐようになっています。
ヒューズと違い、過負荷状態が解除されれば正常状態に復帰できるのも特徴です。
過電流保護の方式には様々なものがありますので、順番に解説していきたいと思います。
LDOの過電流保護方式
LDOを含むシリーズレギュレータの電流制限の方式で代表的なものは下記の3つです。
- 垂下特性
- 二段垂下特性
- フの字特性
垂下特性
垂下特性は、設定した電流制限値以上の電流が流れないようにする最も単純な過電流制限方式です。
設計が簡単で回路規模も小さくて済むのですが、地絡時にレギュレータに掛かる損失が大きくなるというデメリットがあります。
短絡時にICに掛かる損失は、
VIN × I_limit
となります。
二段垂下特性
垂下特性が短絡時に損失が大きくなるという課題を解決したのが二段垂下特性です。
二段垂下特性は、出力ショート時に出力が設定された電圧まで低下すると電流制限値を引き下げる方式です。
これにより短絡時にレギュレータに掛かる損失が低減されます。
フの字特性
フの字特性は、電流制限の特性図がカタカナの「フ」の形になっていることから名付けられています。
海外製のICではFold Back(フォールドバック)と記載されています。
出力電圧に対してリニアに電流制限値が絞られていくので、二段垂下よりもさらに損失の問題が改善されています。
起動時の問題
二段垂下やフの字特性の場合、出力電圧が低い領域で電流制限値が絞られているため、起動不良を起こす場合があります。
下図のように、出力電圧がある程度上昇した時点で負荷デバイスが動作し始め電流が増加するケースにおいて、負荷電流が絞られた電流制限値を超える場合、レギュレータの出力電圧が上昇せず、起動不良となります。
レギュレータの電圧が立ち上がった後に後段のデバイスを起動させるシーケンスとするのが望ましいですが、非同期で負荷デバイスが起動する場合は起動時の負荷特性を確認し、過電流検知レベルを超えないことを設計時に確認しておく必要があります。
DCDCコンバータの過電流保護方式
DCDCコンバータの場合は、大電流を扱う場合が多いという特性上、電流リミットだけでなく、より安全な保護方式が組み合わされます。
パルス・バイ・パルス
DCDCコンバータ(スイッチングレギュレータ)では、基本的にはパルス・バイ・パルスのピーク電流制限方式を取っています。
平滑用コイルに流れる電流のピーク値が設定した電流制限値に達すると強制的にスイッチングをオフさせることで過負荷状態の保護を行います。
注意したいのは、コイルに流れる電流のピークを制限しているのであり、出力電流の限界値を設定しているわけではないという点です。
出力電流の限界値は、電流制限値からコイルのリップル電流の1/2を引いた値となります。
DCDCコンバータの場合、大電流を扱う場合が多いため電流制限だけだとICやコイルなどの周辺部品にダメージを与えてしまう可能性があります。
そのため、一定期間過電流を検知すると動作を停止させる機能を持つICがほとんどです。
一定時間後に自己復帰する「ヒカップ型」と外部からリスタートさせる必要がある「ラッチオフ型」があります。
ヒカップ型過電流保護
ヒカップ(Hiccup)は「しゃっくり」という意味です。
しゃっくりのように一定間隔で起動⇔クールダウンを繰り返す動作を行います。
ヒカップ保護は過電流状態を一定時間検知するとレギュレータの動作を停止させ、過電流によって上昇した部品温度の低下を待つクールダウンタイムを経過すると再びレギュレータを起動させる機能です。
この動作は過電流状態が解除されるまで繰り返されます。
過電流状態がずっと続くのを防ぎ、部品へのダメージを低減できるのと、過電流状態解除時に自己復帰できるというのがメリットになります。
ラッチオフ型過電流保護
ラッチオフ型保護は、ヒカップとは異なり一定時間の過電流状態を検知するとレギュレータをラッチオフさせる保護方式です。
復帰させるには入力電源、またはEnable信号のトグルが必要です。
自己復帰させるのではなく、マイコンなどの外部からの制御によってリスタートさせる場合に使われます。
ヒカップよりもより安全性は高くなりますが、マイコンなどを介す必要があるため簡易的なシステムでは使いにくい方式です。
電流暴走に注意
DCDCコンバータの場合出力がGNDレベルまで短絡すると、オフ期間中にコイル電流が減少せず制限値を超えて電流が増え続ける電流暴走状態に陥ります。
電流暴走を防ぐため、ハードショート時にはスイッチング周波数を低下させる機能が通常は付与されています。
周波数を低下させることで、負荷短絡時のオンDUTYが小さくなり(オフ期間の比が大きくなり)、コイル電流の上昇を防ぐことができます。
ただ、中にはこういった機能を持たないICもありますので、評価する際にはGNDショート時に電流暴走が起こらないことを確認する必要があります。
簡易的な過電流保護回路
ICの外部でディスクリート部品を組み合わせて過電流保護を作る場合などは、簡易的な保護方式が用いられることもあります。
トランジスタと抵抗だけで作る電流制限回路
最も簡単な電流制限回路は、NPNトランジスタの抵抗だけで構成できます。
電流が大きくなると抵抗R1で発生する電位差が大きくなり、電位差がトランジスタのVBEを超えるとオンしゲートドライバの電流を引き抜きます。
これによりMOSFETのGS間電位差が小さくなり、電流が流せなくなります。
したがって、電流制限値は
I_LIM = VBE / R1
で決まります。
簡易的であるため、下記のようなデメリットがあります。
- 電流制限値の精度が悪い
- 抵抗による電圧降下が発生する
- 抵抗に大きな損失が発生する
間欠動作による保護
間欠動作による過電流保護は、設定した電流制限値を超えたことをコンパレータで判定し、一定時間回路をオフさせる方式です。
回路例としては以下のような簡易なものです。
ハイサイドスイッチM3の下流が10mΩで短絡した状態を想定しています。
コンパレータが過電流を検知すると、M2をオンさせコンデンサの電荷を引き抜きます。
コンデンサの電圧が低下するとゲートがオフとなりハイサイドスイッチM3がオフとなります。
ハイサイドスイッチがオフされると、シャント抵抗R1の電圧降下がなくなるため、コンパレータ出力が再び反転し、M2をオフさせます。
コンデンサ電圧はR2との時定数で決まる傾きで上昇していき、しきい値を超えるまでハイサイドスイッチはオフを保ちます。
上記回路でシミュレーションした結果が下図になります。
間欠動作による保護回路は簡単に組めるのですが、シミュレーション結果でも分かるように、設定した電流制限値を超えてしまうのがデメリットです。
これは、コンパレータの入力からハイサイドスイッチがオフするまでの遅延時間によるものです。