多重帰還型アクティブフィルタの特性と設計計算

本稿では多重帰還型のアクティブフィルタについて解説していきます。

前回までに紹介したサレンキー型アクティブフィルタは非反転増幅回路となっていましたが、多重帰還型では反転増幅回路となります。

サレンキー型2次フィルタの特性と設計計算
サレンキー型3次フィルタの特性と設計計算

ローパスフィルタ(LPF)

多重帰還型のローパスフィルタはこのような回路です。

多重帰還型のローパスフィルタ回路

伝達関数、カットオフ周波数、Q値は以下の式で表されます。

伝達関数、カットオフ周波数、Q値

設計計算

計算を簡単にするため、R1=R2=R3=RQ=1とすると、

多重帰還型のローパスフィルタ設計計算

となります。

R=10kΩ、fc=1kHzとすると、
C1=47nF、C2=5.3nFと計算できます。

周波数特性

上記定数の周波数特性をLTspiceで確認してみます。

シミュレーション回路
周波数特性

減衰特性は-40dB/decadeとなっていることが分かります。

増幅率

増幅率Kは

減衰率

で表されます。

KはDC(0Hz)での利得です。
R1=R3であれば、K=-1となるので-1倍(0dB)となります。

ハイパスフィルタ(HPF)

多重帰還型のハイパスフィルタはこのような回路です。

多重帰還型ハイパスフィルタ

伝達関数、カットオフ周波数、Q値は以下の式で表されます。

伝達関数、カットオフ周波数、Q値

また、fc=∞でのゲイン:Kは

ゲイン

で表されます。

設計計算

計算を簡単にするため、C1=C2=C3=CQ=1とすると、

多重帰還型ハイパスフィルタ計算

となります。

C=10nF、fc=1kHzとすると、
R1=5.3kΩ、R2=47kΩと計算できます。

周波数特性

上記定数の周波数特性をLTspiceで確認すると以下のようになります。

多重帰還型ハイパスフィルタシミュレーション回路
周波数特性

バンドパスフィルタ(BPF)

多重帰還型のバンドパスフィルタはこのような回路です。

多重帰還型バンドパスフィルタ回路

伝達関数、カットオフ周波数、Q値は以下の式で表されます。

伝達関数、カットオフ周波数、Q値

また、中心周波数でのゲイン:Kは

ゲイン

で表されます。

設計計算

計算を簡単にするため、C1=C2=CR1=R2=RQ=1とすると、

多重帰還型バンドパスフィルタ計算

となります。

C=10nF、fc=1kHzとすると、
R1=R2=16kΩ、R3=32kΩと計算できます。

周波数特性

上記定数の周波数特性をLTspiceで確認すると以下のようになります。

多重帰還型バンドパスフィルタシミュレーション回路
周波数特性

関連記事
ポールとは?ゼロとは?分かりやすく解説!

オペアンプやレギュレータの位相補償をするために欠かせない知識がポールとゼロ。 しっかり理解すればカットアンドトライでやっていた位相補償を狙って行うことができるようになります。 できるだけ分かりやすく解説していきたいと思います。 伝達関数についても触れますので、以下の記事も合わせて…

オペアンプを使った微分回路の動作原理をシミュレーション波…

微分回路(微分器)とは、入力波形を時間微分した電圧(傾き)を出力する回路です。 微分回路の用途としてはハイパスフィルタやDC成分除去回路などがあります。 合わせて学習 オペアンプ回路の基礎と設計計算の方法 INDEX微分回路の原理微分回路の計算と波形微分回路の動作を解説微分回路の…

オペアンプを使った加算回路の使用例と動作原理

加算回路とは、足し算(加算)の演算ができる回路です。 オペアンプを使った加算回路では、複数のアナログ信号の足し算ができます。 本稿では加算回路の動作原理や特徴・用途について解説していきます。 INDEX加算回路の回路図動作原理反転加算回路非反転加算回路使用例、応用例 加算回路の回…

負性抵抗の原理と回路例

負性抵抗とは、マイナスの抵抗値を持った素子、または回路で、印加する電圧が大きくなると電流が減少するという特性を持っています。 負性抵抗となる素子としては、トンネルダイオードやサイリスタがありますが、本稿ではオペアンプやトランジスタを使った能動的な回路の動作や用途について解説してい…

アクティブフィルターとは?特徴とメリットとデメリットを解…

アクティブフィルタとは、オペアンプを使ったフィルタ回路です。 パッシブフィルタと違い、フィルタに様々な特性を持たせることができます。 本稿では、アクティブフィルタとパッシブフィルタの違いと、アクティブフィルタの種類について解説していきます。 INDEXアクティブフィルタとパッシブ…