スイッチトキャパシタ電源の動作原理【昇圧・降圧・双方向動作が可能】

スイッチトキャパシター電源

スイッチトキャパシタ電源とは、スイッチによってコンデンサの接続を切り替えることで、昇圧または降圧が可能なDCDCコンバータ回路です。
フィードバック制御を行い、定電圧制御が可能なスイッチトキャパシタ・レギュレータICもあります。

スイッチトキャパシタの基本的な仕組み

まず降圧動作について考えます。

降圧の基本的な考え方は、2つのコンデンサを

①直列で充電して
②並列につなぎ替える

となります。

スイッチトキャパシタ電源の仕組み

理解しやすくするため、C1とC2は同じ容量とします。
直列状態で5V電源に接続されると、C1、C2はそれぞれ2.5Vの電位差を持つように充電されます。

充電された状態で並列につなぎ替えれば、電圧は半分の2.5Vとなります。
この動作を繰り返すことで、入力の1/2の電圧が出力できます。

昇圧の場合はチャージポンプ動作となります。

スイッチトキャパシタ昇圧

ポンピングコンデンサ:C1を充電しておき、次のサイクルでC1の上側を出力側に、下側を入力電源:VINにそれぞれつなぎ替えます。
これにより、出力側へ入力の2倍の電圧が転送されます。

チャージポンプに関しては、以下の記事も参考にしてみてください。

チャージポンプの仕組み、動作原理を回路図とシミュレーション波形を使って解説

回路図と動作波形

シミュレーション波形を見ながら、動作を解説していきたいと思います。

スイッチトキャパシタ電源のブロック図は下図のようになります。

スイッチトキャパシタ電源回路

C1の経路をスイッチでつなぎ替えることで、直列と並列を切り替えます。

FETスイッチ、スイッチング制御回路を追加したシミュレーション回路が下図になります。

スイッチトキャパシタ電源回路

FETの同時オンを防ぐため、全てのFETがオフとなる「デッドタイム」を設ける必要があります。
また、FETの接続方向は、ボディダイオードの向きに注意する必要があります。

上記回路でシミュレーションを行った結果が下記の波形です。

スイッチトキャパシタ電源動作波形

スイッチの切り替わりにより、C1の上端電圧が2.5V⇔5Vで変動し、下端電圧が0V⇔2.5Vで変動しているのが分かります。
この動作により、出力電圧が入力電圧の1/2の2.5Vに保たれています。

LTspiceのシミュレーション回路は下記よりダウンロードして頂けます。

ダウンロード
スイッチトキャパシタ電源回路(ascファイル)
※上記ファイルをダウンロードした時点で利用規約に同意したものとみなします。

C1とC2が等しくなくても出力が1/2になる理由

上記シミュレーションでは、C1=1uF、C2=10uFですが、出力が入力のちょうど1/2になっています。
その理由は、起動時の波形を見ると理解できます。

スイッチトキャパシタ起動波形

1回目の直列接続時には、VOUT(C2の充電電圧)は、コンデンサの容量比によって決まっており、VOUTはVINの1/11の電圧までしか充電されません。
並列につなぎ替えられると、C1とC2の上端電圧は等しくなるため、VOUTの電圧が上昇します。

再び直列につなぎ替えられると、VOUTは、前の状態の電圧から充電されるため、容量比によって決まる電圧分上昇します。
ただし、VINとVOUTの差電圧に対しての充電量になるため、1回目よりは上昇幅は低くなります。

これを繰り返し、徐々にVOUTの電圧が上昇し、最終的にVINの半分の電圧に収束します。

このように、容量比に依らず出力電圧は必ず入力電圧の半分になるのです。

昇圧モード時の回路と動作

昇圧動作させる回路は、前出の降圧回路の入力と出力を入れ替えただけです。

スイッチトキャパシタ昇圧回路

上記回路でシミュレーションを行った結果が下記の波形です。

スイッチトキャパシタ昇圧波形

スイッチの切り替わりにより、C1の上端電圧が2.5V⇔5Vで変動し、下端電圧が0V⇔2.5Vで変動しているのが分かります。
この動作により昇圧され、入力電圧の2倍の電圧が出力されています。

双方向動作

降圧と昇圧の回路が、入出力を入れ替えただけで同じということは、双方向動作が可能ということになります。
例えば、耐圧の低い大容量のスーパーキャパシタに降圧した電圧を蓄えておいて、入力電源が断線した際に、スーパーキャパシタから昇圧して出力へ戻すといった、バックアップ動作ができるのです。

双方向動作回路

スイッチトキャパシタを使った双方向バックアップ電源回路

双方向動作波形

スイッチトキャパシタのバックアップ動作波形

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