昇圧DCDCコンバータの動作原理と設計方法

昇圧回路とは、入力電圧より高い電圧を出力する回路です。
昇圧回路にはスイッチングレギュレータとチャージポンプによる2つの方式があります。
ここではスイッチングレギュレータによる昇圧回路の動作原理や設計方法について解説していきます。
昇圧回路の基本と仕組み
昇圧スイッチングレギュレータ回路の基本構成は下図のようになります。

FETスイッチが1つだけの非同期整流(ダイオード整流)タイプとFETスイッチを2つ使った同期整流タイプです。
同期整流の方が制御が難しくなりますが、ダイオードによる導通ロスが少なくなる分、効率が高くなります。
基本動作
FETスイッチがオンすると、コイルを介してGND側へ電流が流れます。
スイッチがオンしている間、コイルに流れる電流が増加していき、コイルにエネルギーが蓄えられていきます。
スイッチがオフすると、コイルに蓄えられたエネルギーがダイオードを介して出力側へ流れます。


スイッチング波形は、コイルとFETの間の電圧です。
この回路はDCDCコンバータですので、下記の関係式が成立します。
VIN × IIN × η = VOUT × IOUT (η:効率)
IINはコイル電流と一致します。
つまり、スイッチのオン期間を長くして入力電流が増加するほど、高い出力電圧を得られることになります。
昇圧DCDCコンバータICの内部回路
昇圧DCDCコンバータICの内部は、下図のような構成になっています。

おおまかな構成ブロックとしては、
- エラーアンプ
- 電流センス回路
- スロープ補償回路
- PWMコンパレータ
- 周波数生成回路(最小オン/オフ時間制御)
- PWM制御回路
- ゲートドライバ
となります。
LTspiceで作成したシミュレーション回路は以下よりダウンロードして頂けます。
動作原理と動作波形
昇圧DCDCコンバータの動作波形は下図のようになります。

スイッチング周波数設定用のパルスによってPWM信号がHiとなり、スイッチングFETをオンします。
オンすると、FET下のセンス抵抗に電流が流れ、電流センス回路の出力電圧が上昇し、同時にスロープ補償回路からもランプ電流が出力され、センス回路部に足し合わせます。
電流センス信号とスロープ補償信号の合計値がエラーアンプ出力電圧を超えると、PWMコンパレータが反転し、フリップフロップのリセット端子をHiにし、PWM信号がLo、スイッチングFETがオフします。
電流モード、スロープ補償に関しての詳しい解説は、下記ページをご参照ください。
昇圧電源の設計方法
例として、5V入力、12V / 500mA出力の昇圧DCDCコンバータを考えます。
1.入力電流の計算
入力電流を求めるのに効率が必要になるので、一旦80%と仮定します。
実際に設計して実測した後で、大きく乖離があれば、実測した値で再計算していくことになります。
入力電流は以下の式で計算できます。

よって、IIN=1.5A となります。
2.リップル電流の計算
コイルのリップル電流を計算します。
インダクタンス値と電圧、電流の関係式は以下のようになります。

tonはFETのオン時間です。
tonを求めるために、まずはDUTYを計算します。
昇圧回路のDUTYは以下の計算式で与えられます。

したがって、tonは以下の式で計算できます。

回生ダイオードのVF=0.5V、スイッチング周波数=500kHzとすると、
D = 56.52%、ton = 1.13us
となり、インダクタンス=10uHとすると、リップル電流は565mAと求めることができます。
3.コイルの選定
コイルのピーク電流は、500mA + 565mA / 2 = 782.5mAとなります。
コイルの直流重畳特性を確認し、ピーク電流までインダクタンスの低下が小さいものを選びます(ピーク電流値でL値-20%以内が目安)
インダクタンス値の低下が大きい場合、直流重畳込のインダクタンス値でリップル電流を再帰計算する必要があります。
4.回生ダイオードの選定
回生ダイオードは逆回復時間の短いショットキーダイオードを使う必要があります。
確認すべきスペックは、
- 平均順方向電流:IF(AV)
- ピーク繰返し逆電圧:VRM
- 逆方向漏れ電流:IR
です。
IF(AV)は許容される順方向電流の最大値です。
電流値と素子の温度の関係が示されています。

平均順方向電流の特性例
DUTYごとにグラフが示されている場合もありますので、実際の使用条件で温度定格に収まるものを選びましょう。
次に、FETオン時にダイオードにかかる逆電圧がピーク繰返し逆電圧以下であることを確認しましょう。
3つ目は、FETオン時に発生するリーク電流です。
この値が大きいと、リーク電流×逆電圧の損失が大きくなり、発熱が増加します。
リーク電流は高温になるほど増えるため、自己発熱で温度上昇⇔リーク電流増加を繰り返し、最終的にショート破壊してしまいます。
高温での逆方向漏れ電流特性を確認し、使用条件において十分リーク電流が少ないことを確認する必要があります。
5.MOSFETの選定
MOSFETのDS間にかかる最大電圧はVOUT + VFになります。
ただし、車載製品などでバッテリの変動が大きい場合、VINがVOUTを超える場合があります。
VOUT+VF、またはVINの最大値もMOSFETの定格電圧を超えないことを確認しましょう。
MOSEFETが外付けのコントローラICの場合、MOSFETのゲートしきい値を確認し、ゲートのドライブ電圧で十分オンできることを確認しましょう。
オン抵抗は必要以上に小さいものを選ばないこと。
オン抵抗が小さいほど素子サイズが大きくなり、ゲート容量が大きくなります。
ゲート容量が大きいと、ゲートドライブが遅くなりスイッチングが鈍ることでスイッチング損失が増大してしまいます。
6.出力コンデンサの選定
昇圧回路の場合、降圧回路に比べリップル電圧が大きくなるので、供給側デバイスの仕様を満足できるような容量、ESRのコンデンサを選定しましょう。
FETがオフの時、コンデンサに充電される電流は、IIN – IOUTとなります。
この電流とESRで発生する電圧差と、コンデンサ容量が充電される電圧の合計がリップル電圧となりますので、計算式は、

となります。
IIN_aveは入力電流(コイル電流)の平均値です。

また、昇圧の場合、コンデンサの充放電電流が上記の通り矩形波状の大きなリップル電流が生じます。
コンデンサには許容リップル電流の定格がありますので、リップル電流の実効値が定格以下であることを確認する必要があります。
ノイズ除去の方法
昇圧電源特有のノイズとして、出力電圧のリップルが大きいことと、出力側へのスパイク電流の発生が挙げられます。
リップル電圧については、前述の通りコンデンサの選定により抑えることができます。
スパイク電流は、回生ダイオードの逆回復時間によって発生します。
スパイク電流は輻射ノイズと共に、出力にスパイク電圧(伝導ノイズ)を発生させます。

スパイクノイズを抑えるためには、できるだけ寄生容量の小さいショットキーダイオードを選ぶ必要があります。
また、同期整流の場合はボディダイオードの逆回復時間が大きく、非同期整流よりもスパイクノイズが大きくなることがあります。
その場合、回生側のFETと並列にショットキーダイオードを挿入することで、スパイクノイズを抑えることができます。