スロープ補償とは?DCDCコンバータのサブハーモニック発振を対策
スロープ補償とは、電流モード制御のDCDCコンバータにおいて、オンDUTYが50%以上の条件で発生する低調波発振(サブハーモニック発振)を抑えるために、電流センス信号に一定の傾きのスロープを足し込むことを指します。
サブハーモニック発振は何故起こるのか
サブハーモニック発振(低調波発振)とは、基本波の整数分の1の低い周波数で起こる発振を指しますが、今回議題に上げる現象は多くの場合スイッチング周波数の半分の周波数で発振します。
電流モードのスイッチングレギュレータは、下図のようにコイル電流と出力電圧を比較して制御しています。
はじめにDUTYが50%以下の場合を考えます。
コイル電流をセンスした電圧がエラーアンプの出力電圧に達するとスイッチングがオフに切り替わります。
オレンジの実線の状態からΔI1だけ出力電流の変化が起こったものが破線の状態になります。
DUTYが50%以下の状態の場合、オン時のコイル電流のスロープの傾きSnはオフ時のコイルの電流スロープの傾きSfより大きくなります。
したがって、電流変化が起こっても、次の周期での電流変化ΔInは徐々に小さくなっていくため収束します。
しかし、DUTYが50%以上の場合は逆にSn<Sfとなり、電流変化ΔInは徐々に大きくなっていくため発振してしまいます。
これがサブハーモニック発振の原理です。
スロープ補償の原理
サブハーモニックを起こさせないためには、Sn>Sfである必要があります。
そこで、オン時の電流スロープに一定の傾きを持ったランプ信号を足し込むことでオン時の傾きの方が大きくなるように補償を行います。
Seは足し込んだランプ量を表します。
サブハーモニック発振を起こさない条件は以下のようになります。
スロープ補償の値が大きいほどサブハーモニック発振は起きにくくなりますが、ラインレギュレーションが大きくなってしまうというデメリットがあります。
そのため、スロープ補償は必要最低限の量にする必要があります。
ダウンスロープとスロープ補償の関係
前述の計算式ではSnとSfの2つのパラメータがありSeを決めにくいと思います。
そこで、Seをダウンスロープ:Sfのみの関係式で表してみます。
まず、定常状態ではオン時の電流変化量ΔInとオフ時の電流変化量ΔIfは等しくなります。
これより、SnをSfの関係式で表すことができます。
これをサブハーモニックの条件式に代入すると、
という関係式が得られます。
ワースト条件はDUTY=1(100%)であるため、
となり、Seはダウンスロープの1/2以上の傾きにする必要があることが分かります。
スロープ補償の回路図
スロープ補償回路は下図のようなものです。
初期の頃は、エラーアンプの出力を右肩下がりにするスロープを付ける回路が組まれていましたが、現在では電流センスの出力にスロープ補償電流を足し込む方式が一般的です。
効果は同じですが、後者の場合はセンスした電流を足し込むだけで実現できるため、回路構成が単純化できるためです。
サンプリング・ポールとスロープ補償の関係
電流モードスイッチングでは、スイッチング周波数の1/2の周波数にダブルポールが発生します。
伝達関数は以下の式で与えられます。
スロープ補償量が小さいとQ値が高くなり、スイッチング周波数の1/2に共振ピークが発生します。
これがサブハーモニック発振がスイッチング周波数の半分で発生する原因です。