DCDCコンバータICを使った電源設計のノウハウ
DCDCコンバータIC(スイッチングレギュレータIC)を使った電源設計の手順、方法について解説していきます。
降圧型電流モード制御DCDCコンバータICを例として取り上げます。
エクセルで作った設計計算シートもご用意しましたのでご活用ください。
ブロック図
今回設計するDCDCコンバータのブロック図です。
同期整流型の降圧スイッチングレギュレータとしました。
出力電圧設定
出力電圧は、抵抗分割比とフィードバック電圧で決まります。
計算式は次のようになります。
ソフトスタート時間設定
ソフトスタート時間は、IC内部から出力される定電流値と外部接続するコンデンサ容量の時定数によって決まります。
計算式は次のようになります。
Issはソフトスタート電流、Vssはソフトスタート終了電圧です。
ソフトスタートの機能については下記の記事をご参照ください。
オンDUTY算出
オンDUTYは入出力電圧の比によって決まりますが、スイッチングFETのオン抵抗による電圧ドロップも考慮に入れる必要があります。
計算式は次のようになります。
RontopはトップFETのオン抵抗、RonbotはボトムFETのオン抵抗です。
インダクタンス値最適化
電流モードの場合、スロープ補償の値によって使用できる出力コイルのインダクタンス値が制限されます。
スロープ補償とは?DCDCコンバータのサブハーモニック発振を対策
サブハーモニックを起こさない条件は、
SeはIC内部で決まるスロープ補償量、Snがコイルのアップスロープ電流の傾き、Sfがダウンスロープ電流の傾きです。
Sn、Sfとインダクタンス値との関係式は以下のようになります。
これを前出の条件式へ代入することで、使用可能なインダクタンスの範囲を求めることができます。
電流制限値計算
ほとんどのDCDCコンバータICの場合、電流制限方式はピーク電流制限方式です。
そのため、リミットがかかる出力電流値は、ピーク電流制限値からリップル電流の1/2を引いた値になります。
エラーアンプ出力をクランプして電流リミットとしている場合は、スロープ補償も影響します。
Tonはスイッチングのオン時間です。
出力リップル電圧計算
出力リップル電圧は、リップル電流、コンデンサ容量、コンデンサのESRによって決まります。
計算式は次のようになります。
周波数スキップ開始電流閾値計算
ダイオード整流だけでなく、同期整流でも強制連続モードがないICの場合、軽負荷時にスイッチングをスキップして周波数が低下してしまいます。
最小オン時間でのスイッチング動作で出力側へ供給する電荷量が、負荷電流によって消費しきれない場合に起こります。
周波数低下によって思わぬ周波数にノイズが発生して問題となる場合がありますので注意が必要です。
スイッチングのスキップが発生するしきい値電流は以下のようにして計算できます。
まず、最小オン時間中の電流変化量を計算します。
次に、スイッチングがオフになってからコイル電流がゼロになるまでの時間を計算します。
上記2式から、最小オン動作時に負荷側へ供給される電荷量が計算できます。
スキップさせないためには、これが負荷電流による消費電荷量より少なくなる必要があります。
Tはスイッチング1周期の時間です。
損失計算
同期整流の場合、損失は次の5つに分けて考えます。
- 導通損失
- スイッチング損失
- ボディダイオードの損失
- ゲート容量の充放電損失
- 制御ブロックの損失
それぞれ以下のような計算式で与えられます。
導通損失
Ron_top、Ron_botは、それぞれハイサイドFET、ローサイドFETのオン抵抗、DはオンDUTYです。。
スイッチング損失
tr、tfはそれぞれスイッチングの立ち上がり時間、立ち下がり時間です。
ボディダイオードの損失
tdr、tdfはそれぞれオン、オフタイミングのデッドタイムです。
ゲート損失と制御ブロック損失
スイッチングFETの電源とコントローラ部の電源が分かれている場合は、コントローラ部の電源電流:Isを測定することで、ゲート損失と制御ブロックの損失を計算することができます。
データシートに記載されている電源電流は、スイッチングしていない状態での値が記載されています。
そのため、電源端子が分離されていない場合はゲート損失を見積もるのが困難です。
メーカーにスイッチング動作状態での消費電流を設計参考値として出してもらうか、スイッチングFETのゲート容量を教えてもらえれば、ゲート損失の計算ができるようになります。
位相補償部品の選定
電流モードの位相補償の手順は次の2点です。
- SW周波数の1/10で0dBになるように1stポールを設定
- 出力コンデンサによるポールをゼロでキャンセル
これにより、1stポールから20dB/decの傾きでゲインが低下し、SW周波数の1/10で0dBになります。
位相は90°だけ遅れますので、十分位相余裕が稼げます。
詳しい計算方法は下記をご参照ください。