ブートストラップ回路の仕組みと動作原理、用途を解説
ブートストラップ回路とは、NchハイサイドMOSFETを駆動させるための回路です。
ブートストラップ回路はシステムの入力電圧より高い電圧を生成できるため、ゲートにドレインより高い電圧を印加し、Nch MOSFETをフルオンさせることができます。
何故ブートストラップ回路が必要なのか
ハイサイドドライバは、通常Pch MOSFETが用いられます。
Nchの場合、ソース電圧は最大でもVIN-VTHとなるため、ソース電圧はドレイン電圧よりVTH下がってしまいます。
※VTHはMOSFETのゲートしきい値電圧
Pchの場合はゲート電圧はソース電圧よりVTH低ければよいので、問題なくフルオンさせることができます。
しかし、Nch MOSFETと同じオン抵抗をPch MOSFETで実現しようとすると、Pchの方が素子サイズが大きくなってしまいます。
そのため、Pch MOSFETはNchに比べ下記のようなデメリットがあることになります。
- 製造コストが高い
- ゲート容量が大きくなる
- より能力の高いゲートドライバ回路が必要
そこで、ハイサイドドライバでもNch MOSFETが使えるように考え出されたのがブートストラップ回路です。
複雑な昇圧回路は不要で、簡単で少ない部品で設計できるのがメリットです。
ブートストラップの仕組みと動作原理
ブートストラップの回路構成は下図のようになります。
LTspiceで行ったシミュレーション結果を見ながら解説していきます。
はじめに、FETがオフの状態でコンデンサ:CBがVCC(=5V)まで充電されます。
CBの下側は0Vですので、両端の電位差が5Vということになります。
CBの下側はFETのソース側に接続されており、フローティング状態になります。
FETがオンするとソース電圧が上昇しますが、CBの両端電位差5Vは保ったままですので、CBの上側の電圧:VBOOTは常にVS+5Vとなります。
原理的にはチャージポンプと同じですが、チャージポンプとの違いは、自分自身の動作の中で昇圧するかどうかという部分になります。
チャージポンプの仕組み、動作原理を回路図とシミュレーション波形を使って解説
ゲート電圧:VGはソース電圧:VSより高くなります。
下図の通り、ドレイン電圧VD≒VSとなっており、FETがフルオンできていることが分かります。
今回使用したLTspiceのシミュレーション回路は以下よりダウンロードできます。
ブートストラップ回路の用途
ブートストラップ回路が使われるのは、モータドライバなどのハイサイドスイッチや、DCDCコンバータ(スイッチングレギュレータ)などです。
原理上、ブートストラップコンデンサを充電するためには、一度FETをオフさせてVBOOTの電圧を下げる必要があるため、常にスイッチングしているシステムでないと使えないのがデメリットになります。
電流制限抵抗によるノイズ対策
ブートストラップコンデンサと直列に抵抗を入れることでノイズ対策ができます。
FETのスイッチング速度が速すぎるとノイズが大きくなるため、一般的にはFETのゲートラインに抵抗を入れてスイッチング波形を鈍らせるのですが、FETがICに内蔵されたDCDCコンバータやIPDなどの場合にはこういった対策が取れません。
そこで、ブートストラップコンデンサと直列に抵抗を入れることで、ゲートにチャージする電流に制限がかかり、オン側のみですがスイッチング波形を鈍らせることができます。
注意しないといけないのは、抵抗によってブートコンデンサの充電も阻害されるということです。
抵抗が大きすぎるとブートストラップ電圧が低下し、スイッチングできなくなってしまいます。
ブーツを履く時にこの部分を引っ張り上げて履くことから転じて、「自助努力」という意味もあります。
ブートストラップ回路も、他回路から電源をもらうのではなく、自分の動作によって電源を持ち上げているところから名付けられています。