USB PD回路設計に必要な基礎知識
USB PD(Power Delivery)とは、USB type-Cケーブルを使って、最大100W(20V/5A)までの電力を給電できる規格です。
USB PDのメリットは以下のようなものです。
- 従来以上の急速充電が可能
- 電圧切り替えができるので、PCなど様々な機器を充電できる
- 1つのACアダプタを使い回すことができる
- 充電と給電をスワップ(入れ替え)できる
ここでは、USB PDに対応した回路を設計するために必要な知識を学んでいきます。
USB PDの規格
基本仕様は以下の通りです。
電力 | 最大100W |
---|---|
電圧 | 5V / 9V / 15V / 20V |
電流 | 3A / 5A |
USB PDの仕様書は、下記のページで公開されています。
USB Power Delivery仕様(外部ページ)
パワールール
パワールールとは、様々な機器が受電・給電できるようにするための守るべき電圧・電流のルールです。
PDP | 5V | 9V | 15V | 20V |
---|---|---|---|---|
0W≦PDP≦15W | PDP/5 A | – | – | – |
15W<PDP≦27W | 3A | PDP/9 A | – | – |
27W<PDP≦45W | 3A | 3A | PDP/15 A | – |
45W<PDP≦60W | 3A | 3A | 3A | PDP/20 A |
60W<PDP≦100W | 3A | 3A | 3A | PDP/20 A |
PDPはPower Delivery Powerの略で、出力電力(ワット数)のことです。
充電器側は上記以外の電圧を出力してはいけないわけではなく、オプション電圧として対応することが可能です。
そのため、12V出力に対応した製品もあります。
また、「パワープロファイル」という仕様もよく見かけると思いますが、これは古い仕様となっていますので、ここでは説明を割愛します。
コンフィギュレーションプロセス
コンフィギュレーションプロセスでは、接続状態の確認や設定が行われます。
- ケーブルが接続されているかどうか
- プラグの接続方向
- ソース側、シンク側の確立
- VBUS供給電流の検知
- USB PD通信
- 拡張機能の設定
ソース側デバイス(DFP:Downstream Facing Port)とシンク側デバイス(UFP:Upstream Facing Port)がケーブルで接続されると、DFPはCC1/2の電圧を確認します。
CC1/2の電圧は、RpとRdの分圧、またはRpとRaの分圧でで決まる電圧となり、電圧値によってケーブル、コネクタの接続方向が分かります。
Rdと接続された方のCC端子はUFPとのパケット通信に使われ、Raと接続された側はVCONNと呼ばれる電圧供給端子として使われます。
DFPはRdを検出すると、UFPとの接続が確立したとしてVBUSを出力します。
UFPがVBUSを検知するとDFPとの接続を認識します。
そしてCC1/2の電圧をモニタしてRpの抵抗値を確認することで、DFP側の供給能力を確認します。
Rpの抵抗値と電流能力の関係は以下のようになっています。
供給電力 | Rp | |
---|---|---|
5Vプルアップ | 3.3Vプルアップ | |
デフォルト (USB2:0.5A、USB3:0.9A) |
56kΩ | 36kΩ |
5V / 1.5A | 22kΩ | 12kΩ |
5V / 3A | 10kΩ | 4.7kΩ |
Rdの抵抗値は5.1kΩ、Raは0.8kΩ~1.2kΩです。
コネクタ、ケーブルの接続方向は以下の4パターンが考えられますが、CC電圧を検出することでどの向きで接続されているか認識できるようになっています。
ここまでのプロセスはパワーデリバリーとは関係なく、USB type-Cの規格で決まっているものです。
E-Marker ICとは
USB type-C用のケーブルにはE-Marker ICが搭載されています。
E-Marker ICが搭載されたケーブルをE-Markedケーブル(EMC)と呼びます。
E-Marker ICはVCONN電源で動作し、ケーブルの情報や電流供給能力などの情報が登録されています。
E-Marker ICは、USB PDに対応しているのか、対応している場合はどのパワールールに対応しているのかをデバイスに知らせてくれます。
これにより、ケーブルの能力を超えた電流が流されないようにし、ケーブルの異常発熱、発火を防いでいます。
パワーネゴシエーション
E-MarkedケーブルのIDを確認し、USB PDに対応していればDFPとUFPの間で通信を行い、どのパワールールに対応しているかネゴシエーションを開始します。
まず、DFP側からパワールールの中で対応可能なPDO(Power Data Object)を送信し、UFP側がその中から使用するPDOを選択して返します。
ネゴシエーションで決まった電圧がVBUSに出力され、UFP側は決まった電流をシンクします。
USB PD回路の設計例
USB PDに対応したソース側、シンク側の設計例を下図に示します。
画像をクリックすると拡大できます
ソース側
USB PDコントローラICがシンク側とネゴシエーションし、決定した出力電圧値をDCDCコンバータへ伝えVBUS電圧を出力します。
上図ではI2Cの通信で出力電圧を可変しているイメージですが、間にCPUを介して出力電圧を変更する場合もありますし、下図のようにDCDCコンバータのフィードバック抵抗の分圧値を切り替えるアナログ的な方法もあります。
VBUS電源は5Vから20Vと出力電圧の幅が広いため、昇降圧DCDCコンバータを使います。
USB PD向けの専用のDCDCコンバータICもありますが、電圧をアナログ的に切り替えるのであれば汎用的なDCDCコンバータが使えます。
シンク側
リチウムイオンバッテリーなどを充電するイメージの回路例です。
ソース側とのネゴシエーションで決まった電流値を最大値としてバッテリー充電電流を決めます。
VBUSにどんな電圧が入力されても一定電圧を出力できるように、充電ICも昇降圧タイプのチャージングICが使われることが多くなります。