熱抵抗と発熱の関係と温度上昇の計算方法
熱抵抗とは、熱の伝わりにくさを表した値で、1Wあたりの温度上昇量で定義されます。
記号にはθやRthが使われ、単位は℃/Wです。
熱抵抗値が低いほど熱が伝わりやすい、つまり放熱性能が高いと言えます。
本稿では、熱抵抗から温度上昇を求める方法と、実際の製品設計でどのように温度上昇を見積もればいいのかについて解説していきます。
熱抵抗から発熱を計算
熱抵抗から発熱を求めるための計算式は、電気回路のオームの法則の公式と同じ関係になります。
電気回路
電圧(V) = 電流(I) × 抵抗(R)
熱計算
温度上昇(T) = 消費電力(P) × 熱抵抗(Rth)
オームの法則で電圧を求めるように、消費電力に熱抵抗をかけることで温度上昇量を計算することができます。
ICの放熱経路
ICには複数の放熱経路があります。
QFPパッケージのICを例として放熱経路を図示します。
放熱経路は3つに別れます。
- チップ ⇒ ダイパッド ⇒ 基板 ⇒ 大気
- チップ ⇒ リード ⇒ 基板 ⇒ 大気
- チップ ⇒ パッケージ ⇒ 大気
実際に温度上昇を計算する際に必要になるのが、チップからパッケージ上面までの熱抵抗:Ψjtです。
Ψjtは以下の式で表されます。
Ψjt = (Tj – Tc_top) / P
Tjはチップ温度、Tc_topがパッケージ上面温度、Pが損失です。
θjcがチップからパッケージ上面への放熱経路で全ての放熱が行われた場合の熱抵抗であるのに対し、Ψjtは基板に実装し、上述のような複数の経路で放熱された場合の熱抵抗です。
では、Ψjtを用いてチップ温度を見積もる方法について解説していきます。
熱抵抗からジャンクション温度を見積もる方法
ICの温度定格としてTj_max(チップの最大温度)が規定されていますが、チップ温度を実測することは困難です。
そこで、実際の設計の場面では、パッケージ上面の温度からチップ温度を予測するしかありません。
そこで必要になるパラメータがΨjtです。
Ψjtを使って、ジャンクション温度:Tjは以下のように計算できます。
Tj = Ψjt × P + Tc_top
Tc_topは熱電対などで簡単に測定することができます。
問題は2点あります。
- メーカーによってはΨjtを規定していないことがある
- Ψjtの測定条件と実際の使用条件が違う
前者に関しては、データシートに記載されていなくてもデータを持っている場合があるので、交渉して提出してもらうしかありません。
後者に関しては、大抵の場合JEDEC Standardに準拠した基板で測定したデータが記載されています。
しかし、周囲の熱源の影響を受けない前提の基板パターンとなっており、実際の製品では規定されているΨjtの値より高くなる場合がほとんどです。
実製品の使用条件において、Tj_maxに対して十分余裕があれば上記方法で目処付けすることは可能です。
しかし、余裕度がないような場合は、何らかの方法で正確なジャンクション温度を見積もる必要があります。
ジャンクション温度の測定方法
できるだけ正確なチップ温度を測定する方法を3つご紹介します。
1.ダイオードのVFを使って測定する
主に自社カスタムICの場合に用いられる方法で、温度測定用の端子を用意し、下図のようにダイオードのVFを測定できるようにしておきます。
自社プロセスならダイオードのVFの温度特性が分かっていますし、ICの発熱の無い状態で周囲温度を変えてVFを測定すれば温度特性が確認できます。
例えば、-2mV/℃の温度特性を持っていたとすれば、ジャンクション温度は、
と計算できます。
2.過熱検知温度を使って測定する
2つ目は、ICに内蔵された過熱検知機能を使って測定する方法です。
まず、ICの過熱検知温度が何度かを測定するため、できるだけICの発熱が無い状態で動作させ、周囲温度を上げていって過熱検知で停止する温度(Totp)を測定します。
次に、ICに発生する電力損失を徐々に上げていき、過熱検知がかかる電力損失(Potp)を確認します。
これで、実使用条件での熱抵抗が分かるため、正確なTjを計算することができます。
ICの損失をどれだけ正確に見積もれるかが、温度の正確さに反映されます。
3.I2Cで出力された温度情報を確認する
アナログICでもI2Cを搭載した製品は増えてきており、中にはジャンクション温度をI2Cで出力できる製品もあります。
そういった製品であれば、実使用条件で動作させ、温度をマイコンや評価用のGUIで読み取ることで、正確なジャンクション温度を確認することができます。
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