トランジスタの飽和領域とは?飽和する原理を解説
本稿では、トランジスタの飽和について解説していきます。
バイポーラトランジスタを飽和状態で使用する際に起こる問題点と対策方法を紹介します。
また、バイポーラトランジスタの飽和とMOSFETの飽和の違いについても説明します。
バイポーラトランジスタの飽和とは
バイポーラトランジスタの飽和とは、ベース電流を増やしてもコレクタ電流が増えなくなる状態です。
IC-IB特性で示すと次のようになります。
なぜ飽和するのか
下図のようなエミッタ接地回路を考えます。
ベース電流を流すと、コレクタにはベース電流のhFE倍の電流が流れます。
コレクタ電流が増加すると、抵抗:RLによる電圧降下によってコレクタ電圧が低下していきます。
コレクタ電流の最大値は、コレクタ電圧が0Vになった時で、Ic_max = VCC / RLとなります。
ベース電流をいくら大きくしても、コレクタ電流はこれ以上増加しません。
これが飽和状態です。
飽和電圧とは
先程は簡単のため飽和時のコレクタ電圧は0Vとしましたが、実際にはコレクタ-エミッタ間の抵抗成分によってわずかに電圧差が発生します。
これを飽和電圧(VCE_sat)と言います。
トランジスタの種類やコレクタ電流によって値は異なりますが、通常は数十mV~0.2V程度です。
IC-VCE特性を見てみましょう。
コレクタ電流を増やしてもVCEがほとんど大きくならない領域が飽和領域です。
飽和領域のVCEが飽和電圧となります。
VCEに依らずコレクタ電流が一定になる領域を活性領域と呼びます。
活性領域ではコレクタ電流がベース電流のhFE倍で決まるため、ベース電流が一定であればコレクタ電流が一定となるのです。
活性領域でわずかにコレクタ電流が増加傾向になるのはアーリー効果による影響です。
飽和電圧があるため、飽和時のコレクタ電流は、厳密には下記のように計算されます。
IC_max = (VCC – VCE_sat) / RL
飽和時の問題点
バイポーラトランジスタを飽和させて使う場合には次の2つの点に注意する必要があります。
1.hFEの低下
飽和領域ではコレクタ電流が増加しないにも関わらず、ベース電流だけが増加します。
つまり、hFEが低下することになります。
VCEとhFEの関係をグラフにすると次のようになります。
飽和させてトランジスタを使用する場合は、飽和状態でのhFEでもコレクタ電流を十分ドライブできるようにベース電流を設定する必要があります。
2.スイッチング速度の低下
飽和状態ではベース内に過剰に電荷が蓄えられている状態となっています。
ベース内の電荷:QBとコレクタ電流:ICの関係を見てみましょう。
トランジスタがオン状態からオフ状態に切り替える際、ベース電流をゼロにしますが、ベース内に蓄えられた蓄積電荷が排出されるまでオン状態が継続します。
過剰な蓄積電荷が排出されるまでの時間を蓄積時間と呼びます。
これにより、トランジスタを飽和させて使用するとオンからオフに切り替わるまでに時間がかかり、スイッチング速度が低下してしまうのです。
過飽和防止回路
バイポーラトランジスタのスイッチング速度を向上させるためには、過剰に飽和させないようにする必要があります。
過飽和防止回路の例としては下図のようなものがあります。
コレクタ電圧がIB×R1以下になるとダイオードがオンしてベース電流をコレクタ側へ流します。
つまり、コレクタ電圧がIB×R1以下にならないようにクランプし、ベース電流を減少させることで飽和状態にならないようにすることができるのです。
飽和防止回路があることでスイッチング速度がこのように改善します。
デメリットはオン時のLo電圧が高くなってしまうことです。
MOSFETの飽和領域
MOSFETの飽和はバイポーラトランジスタの飽和と意味合いが異なります。
MOSFETの飽和領域は下図で示す通り、VDSの電圧によらずドレイン電流が一定になる領域を言います。
飽和領域ではドレイン電流はMOSFETのトランスコンダクタンス:Gmによって決まるため、電流源として振る舞います。
したがって、VGSが一定であればドレイン電流が一定となるのです。
VDSに対し線形にドレイン電流が増加する領域を線形領域と呼びます。
この領域の傾きがオン抵抗に該当します。
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