バイポーラトランジスタの仕組みと原理

バイポーラトランジスタ

バイポーラトランジスタとは、半導体のPN接合を利用したトランジスタです。
コレクタ、エミッタ、ベースの3端子で構成され、ベース-エミッタ間に一定以上の電圧を印加することでオンさせる(コレクタ-エミッタ間を導通させる)ことができます。
また、ベースに流し込んだ電流を増幅する、電流増幅回路としても使われます。

バイポーラトランジスタの種類

バイポーラトランジスタには、

  • NPNトランジスタ
  • PNPトランジスタ

の2種類があります。

NPNトランジスタ

NPNトランジスタの回路記号と等価回路は下図のようになります。

NPNトランジスタの回路記号と等価回路

コレクタとエミッタがN型半導体、ベースがP型半導体で構成されます。
2つのPN接合で構成されているため、2つのダイオードと電流源で等価回路を描くことができます。

バイポーラトランジスタはベース電流(IB)をhFE倍に増幅して出力する特性があります。
したがって、コレクタ電流(IC)はhFE×IBで表されます。

PNPトランジスタ

PNPトランジスタの回路記号と等価回路は下図のようになります。

PNPトランジスタの回路記号と等価回路

コレクタとエミッタがP型半導体、ベースがN型半導体で構成されます。
NPNトランジスタ同様、2つのダイオードと電流源で等価回路を描くことができます。

バイポーラトランジスタの動作と特性

バイポーラトランジスタは「スイッチ」としての動作と「電流増幅器」としての動作があります。

スイッチング動作

ベース-エミッタ間電圧(VBE)が一定以上になると、コレクタ-エミッタ間が導通してオン状態となります。
オンするVBEの閾値は、おおよそ0.65V程度となります。
ただし、素子や使用条件によって値は異なります。

VBEをスイープさせて横軸に取った波形を見ると、VBE=0.65V付近からコレクタ電流が増加しており、オンしていることが分かります。

VBE-IC特性

次にスイッチング動作を確認してみます。

NPNトランジスタのスイッチング回路

VINが0Vの時はトランジスタがオフしているため、出力(OUT)は5Vとなります。
VINがHiになるとトランジスタがオンし、出力がほぼ0Vとなります。
このとき、ベース電圧VBは0.67Vになっています。

NPNトランジスタのスイッチング特性

入力とベースの間に抵抗:R1を挿入しているのは電流制限をかけるためです。
ベース-エミッタはPN接合となっており、この部分だけ見るとダイオードと見なすことができます。
したがって、ベースに直接電圧源を接続すると、ベース-エミッタ間に大きな電流が流れてしまい、最悪トランジスタが破壊されてしまいます。

抵抗:R1を入れることで、ベース電流:IBは、

IB = ( VIN – VBE ) / R1

となり、R1によって制限がかかります。

PNPトランジスタのオン・オフ特性も同様に考えられます。
ベース電圧がエミッタ電圧より一定値低くなるとトランジスタがオンして出力がHiになります。

PNPトランジスタのスイッチング回路 PNPトランジスタのスイッチング特性

電流増幅器としての動作

スイッチとしての特性は、オン・オフのデジタル的な視点で考えましたが、電流増幅器としての特性は、アナログ的(連続的)な視点で考えます。

バイポーラトランジスタはベース電流をhFE倍した電流をコレクタに出力します。

バイポーラトランジスタの電流増幅

IC = hFE × IB

ICはコレクタ電流、hFEは電流増幅率です。
素子や使用条件によって変わりますが、hFEは通常100〜300程度となります。

エミッタにはコレクタ電流とベース電流の両方が流れ込むため、

IE = IC + IB = hFE × IB + IB = ( 1 + hFE )IB

となります。

下図の回路で特性を確認してみます。

電流増幅特性 IB-IC特性

ベース電流のhFE倍の電流がコレクタに流れ、R1との電圧降下によって出力電圧(VC)が低下していきます。

VCE電圧の下限を飽和電圧(VCEsat)と呼び、この領域ではベース電流を増やしてもコレクタ電流が増加しなくなるためhFEが低下します。
この状態をトランジスタの飽和と呼びます。

トランジスタの飽和領域とは?飽和する原理を解説

バイポーラトランジスタの構造と仕組み

NPN、PNPそれぞれについて、どのような仕組みで動作しているのか、モデル図、構造図を用いて解説していきます。

NPNトランジスタの構造と動作原理

NPNトランジスタは下図のような構造になっています。

NPNトランジスタの構造

動作原理を説明するために、モデル図を用います。

NPNトランジスタの構造モデル図

ベース-エミッタ間に電圧を印加すると、エミッタ層に電子が注入されます。
電子はベース側へ流れ込み、一部はベース層内の正孔にトラップされベース電流となります。

ベース層は、実際には非常に薄いため、電子はほとんどトラップされず、大部分がコレクタ側へ移動します。
したがって、電流としてはコレクタからエミッタに流れることになります。

トラップされる電子の比率でhFEが決まります。

PNPトランジスタの構造と動作原理

PNPトランジスタは下図のような構造になっています。

PNPトランジスタの構造

動作原理を説明するために、モデル図を用います。

PNPトランジスタの構造モデル図

NPNトランジスタとは逆に、正孔がベース側へ移動し、一部が電子と結合してベース電流となります。
大部分の正孔はコレクタ層に達し、エミッタ⇒コレクタへ電流が流れます。

増幅回路(接地回路)

バイポーラトランジスタの使い方として、3つの基本的な型があります。

  1. エミッタ接地
  2. コレクタ接地
  3. ベース接地

接地というとGNDに接続するイメージが強いと思いますが、電圧が一定である所に接続することを接地と言います。

したがって、GNDだけでなく、電源などに接続する場合も接地と言います。

エミッタ接地

エミッタ接地

最も基本的な型です。

電圧、電流利得共に高く、入力インピーダンスが低い、出力インピーダンスが高いという特徴を持ちます。
出力反転回路(インバータ)や、反転増幅回路として用いられます。

エミッタ接地回路の特徴と使い方

コレクタ接地

コレクタ接地

出力(エミッタ)が入力に追従するので、エミッタフォロワという呼び方をする場合もあります。

入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低いため、インピーダンス変換回路(バッファ回路)としてオペアンプやドライバ回路の出力段に使われます。

コレクタ接地(エミッタフォロワ)回路の特徴と使い方

ベース接地

ベース接地回路

エミッタを入力、コレクタを出力として使います。
入力インピーダンスが低く、出力インピーダンスが高いので、電流バッファ回路として使われます。

ベース接地回路の特徴と用途

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