電気回路におけるコイルの動作、役割

コイル

電気回路設計を学ぶ上でコイル(インダクタ)の動作は理解が難しいものの1つです。

本稿では、理論的な部分はあまり語らず、回路動作としてコイルがどのような働きをするかという部分に絞ってわかりやすく解説していきます。

コイルの特徴、特性

コイルには、電流の変化を抑えるという特性があります。
したがって、

  • 電流を急には流せない
  • 一度流れた電流は急には止められない

という特徴を持ちます。
実際に動作波形を見て確認しましょう。

電流・電圧特性

まず、下図のようにコイルに定電圧を印加する回路を考えます。

コイルに定電圧を印加した回路

電源:VINを0V⇒5Vを印加すると、コイルに流れる電流はすぐには流れず、時間が経つにつれて徐々に増加していきます。

コイル電流波形

電流が増加する傾き:dI/dtは以下の関係式で与えられます。

コイル電流公式

ΔVはコイルの両端にかかる電圧差です。
今回の場合、コイルの上端が5V、下端が0Vなので、ΔV=5V-0V=5Vとなります。

よって傾きは、5V÷100mH=50mA/msとなります。

方形波を印加した場合の挙動

次に、コイルに方形波の電圧波形を印加した場合のコイル電流を確認しましょう。

コイルに方形波を印加

方形波を印加した場合、コイル電流は三角波になります。
VIN=5Vでは、先程と同様、コイル電流が50mA/msの傾きで上昇します。

VIN=-5Vになっても、コイル電流はすぐには逆流しません。
コイルの上端の電圧が-5Vになるため、ΔV=-5V、よってコイル電流は-50mA/msの傾きで低下していきます。
そして、電流が0Aまで減少したところで電流が逆流します。

コイルによるノイズ除去

電流の変化を抑制するという特性から、コイルはノイズ対策にも使われます。

±100mV / 100kHzのノイズが重畳した電源が負荷に印加された場合を考えます。

ノイズ重畳 ノイズ重畳

この時、負荷電流には±100mV / RL = ±10mAの電流ノイズが流れます。

電源と負荷の間にコイルを挿入すると、電圧変動による電流変動が抑えられ、ノイズが低減されます。

コイルによるノイズ対策 コイルによるノイズ対策

電流変動が抑えられるため、負荷にかかる電圧の変動も小さくります。

コイルによって起こる不具合

コイルの「電流を流し続ける」という特性により不具合が起こることがあります。
下図のようにスイッチでコイルに電源を印加⇔切断をする場合に注意が必要になります。

コイル電流

スイッチをオンすると、コイル電流が上昇しはじめます。
今回は抵抗R1があるので、コイル電流はVIN / R1 = 5mAが最大値となります。

この状態からスイッチをオフすると、コイルは電流を流し続けようとするため、R2を介して電流を流そうとします。
5mAの電流がR2に流れるため、コイル上端の電圧:VLは5mA × 10kΩ = -50Vという大きな負電圧が発生します。

この電圧を逆起電力と呼びます。

スイッチがオンからオフに切り替わった際の波形は以下のようになります。

コイルによる負電圧

負電圧によりコイルには-50Vの逆電圧がかかるため、コイル電流は減少します。
電流の減衰時間はR2とLで決まり、時定数はL/R2です。

時定数とは?求め方や公式について解説

実際の回路では、この負電圧により半導体部品が破壊されるという不具合が発生しますので、対策が必要になります。

動画で電子回路の基礎を学ぶ

Analogistaでは、電子回路の基礎から学習できるセミナー動画を作成しました。

電子の動きをアニメーションを使って解説したり、シミュレーションを使って回路動作を説明し、直感的に理解しやすい内容としています。

これから電子回路を学ぶ必要がある社会人の方、趣味で電子工作を始めたい方におすすめの講座になっています。

電子回路を動画で学ぶ

【内容】

  • 電気回路の基本法則
  • 回路シミュレータの使い方
  • コンデンサ・コイルとインピーダンス
  • フィルタ回路
  • 半導体部品の基礎
  • オペアンプの基礎
関連記事
LDOの基礎から応用まで全てを解説

本記事では、LDOを使った電源設計ができるようになるために必要な全ての知識を、基礎から応用まで分かりやすく解説していきます。 INDEXLDOとは?シリーズレギュレータとの違いスイッチングレギュレータとの違い仕組みと動作原理データシートの見方出力電圧範囲最大出力電流電圧精度出力電…

インピーダンス整合(インピーダンスマッチング)のやり方

インピーダンス整合とは、入力側と出力側のインピーダンスを合わせることです。 インピーダンスマッチングとも呼ばれます。 低周波回路では、負荷に与える電力を最大化することが目的で、高周波回路では信号の反射によって生じるリンギング・ノイズを抑えることが目的です。 INDEX低周波回路の…

スナバ回路とは?動作原理と定数の決め方を解説

スナバ回路とは、FETスイッチなどの切り替わり時に発生する高周波リンギングを吸収するノイズ対策回路です。 最もよく使われるのが、抵抗とコンデンサで構成されるRCスナバ回路です。 スナバ回路の設計計算は難しく、なんとなくで定数を決めている場合が少なくありません。 ここでは、実際の開…

チャタリングとは?原因と対策方法について

チャタリングとは、主にリレー、スイッチがオンする際に機械的な振動によって短い周期のオン・オフを繰り返すことを言います。 電子回路でも発生し、バッファのHi-Loの切り替わり時に同様の振動を繰り返すことがあります。 本稿では、チャタリングの発生原因と対策、防止回路について解説してい…