MLCCとは?供給不足問題を解決する代替部品とCASE進展による需要を予測

MLCC

MLCCとは、Multi Layered Ceramic Capacitorの頭文字を取ったもので、日本語では積層セラミックコンデンサといいます。
誘電体と電極を多層化した構造で小型化が可能となっています。

MLCCの構造

MLCCの需要は年々伸びており、2018年頃から需要に供給が追いついていない状況が続いています。
本稿ではMLCCの供給不足問題と代替部品について解説していきます。

MLCCの供給不足問題

スマホやタブレットなどのモバイル機器の世界的な市場拡大とCASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)による自動車の電子部品需要が急速に増加したことにより、2018年頃からMLCCの供給が不足する事態に陥りました。

MLCCのシェアトップの村田製作所は、供給不足に対応するため3216以上のサイズの生産中止、またはラインナップの大幅削減を進めました。
サイズが小さい方が生産効率が良く、生産数量を増やせるためです。

そのため、今後は1005や0603サイズの小型のMLCCにどんどんシフトしていく方針が取られています。

車載用MLCCのサイズ比率の推移

引用元:村田製作所<信頼性と小型・大容量を両立、CASEトレンドに寄り添い進化する車載用MLCC>

車載製品における問題

MLCCの小型サイズへのシフトは、自動車向けをある程度犠牲にしてスマホなどのモバイル製品を優先した結果です。
そのため、車載ECUを生産しているメーカーでは単純に小型のMLCCに置き換えることができず、設計段階で大きな困難を抱えることとなりました。

MLCCは「DCバイアス特性」という特性を持っています。
これは、MLCCに印加される電圧が高いほど実効容量が減少するというものです。

DCバイアス特性

DCバイアス特性のイメージ

また、DCバイアス特性はMLCCのサイズが小さくなるほど悪化します。
そのため、同じ10μFのMLCCでも3216と1608では実際の容量が3倍違うということもあり得るのです。

内部の動作電圧が低いモバイル機器では影響は少ないのですが、12Vや24Vを扱う自動車部品では影響が大きくなります。

特にDCDCコンバータの入出力には大容量のMLCCが必要になるため、そのまま置き換えると逆に実装面積が大きくなり、コストも増大してしまうという問題を抱えることとなりました。

車載MLCCのシェア

車載MLCCのシェアは村田製作所が約50%を占め、2位のTDKの約20%に大きく差を付けています。
以下、太陽誘電、SEMCO、YAGEOと続きます。

MLCCは単価が低く、技術的にも新しいものではないため特に自動車向けでは実績を優先してメーカーの切り替えはほとんど起こりませんでした。

しかし、MLCCの供給が逼迫している中、自動車のEV、自動運転による市場拡大に乗るため太陽誘電やSEMCOが車載部品事業に力を入れ始めています。

数量ベースでのシェアの変化は少ないと思いますが、村田製作所が生産中止を進めている3225、3216サイズの置き換えがあれば、容量比や売り上げ比でのシェア変化が起こる可能性があります。

MLCCの代替部品

車載ECUでは大容量のコンデンサを小型MLCCに置き換えることが困難であったため、電解コンデンサへの置き換えが検討されました。

しかし、電解コンデンサへ置き換えた場合、次のような背反があります。

  1. ノイズ性能の悪化
  2. 電源の発振
  3. 実装位置が限定される

①と②の原因はESRが大きくなることです。
ESRが大きくなることでノイズをバイパスできず、リップル電圧の増大やノイズの閉じ込めができないといったことが起こります。

また、最近のDCDCコンバータは低ESRのセラミックコンデンサの使用を前提としており、大きなESRがある電解コンデンサでは位相余裕が不足し、発振する危険性があります。

③は電解コンデンサがMLCCに比べると高さがあるということに起因します。
主に複数基板を重ねて搭載している製品の場合、基板間のクリアランスが狭い場合があり、電解コンデンサのような高さのある部品は搭載位置が限定されてしまい使い勝手が悪いのです。

次に注目されたのが導電性高分子コンデンサです。
外径は電解コンデンサと同じですが、誘電体にポリマーを使っているため電解コンデンサに比べESRが小さいという特徴があります。

しかし、MLCCに比べるとESRが大きいため、容量は導電性高分子コンデンサで稼いでノイズ対策はMLCCで行うというように併用が必要になる場合が多くなるでしょう。

また、外径は電解コンデンサと同じなので、搭載場所の問題は解決しません。

面実装フィルムコンデンサが代替となる可能性

電解コンデンサや導電性高分子コンデンサが抱える問題を解決できる可能性があるのが面実装タイプのフィルムコンデンサです。
近年、パナソニックが力を入れている製品です。

フィルムコンデンサのESRはMLCCと同等か小さく、ノイズ除去性能も同等以上です。
DCバイアス特性が無いのも特徴。
さらに、面実装タイプなのでサイズが小さく、MLCCと同型の3225や3216サイズで高さ方向の問題もクリアできます。

しかし、現時点では容量が1μF程度が上限であり、電源の入出力に必要な容量に対しては少し不足している状況です。
今後、容量が増加し、コストも下がってくれば一気に普及する可能性があると考えられます。

CASEの進展によるMLCCの需要予測

EV化が進むと、400Vなどの超高耐圧のMCLLの需要も増えますが、数量としてはバッテリマネジメント部分に必要な1μF前後のMLCCの需要が増えると考えられます。
EVバッテリは、リチウムイオン電池を100セル近く縦に積んだ構成となっています。
このリチウムイオン電池の各セルの電圧を監視し、電圧が均一になるように制御しているのがバッテリマネジメントシステムです。

電圧を均一に制御することをセルバランシングと呼び、各セルごとにセルバランシングICを配置しているため、リチウムイオン電池のセル数だけ制御回路が必要になります。
これらの回路は各セルの間に配置され、フローティング状態で設置されているため、耐圧はリチウムイオン電池1セル分の電圧で済みます。

セルバランシングの原理

次に、自動運転が進むとSoC(System on a Chip)の処理負荷が増大し、消費電流が増加していきます。
現状でもSoCのコア電源端子には100μFを超えるMLCCが電圧安定化用に使われていますが、今後さらに容量が増大することは想像に難くありません。

また、SoCの電流増加により輻射・伝導ノイズが大きくなります。
したがって、よりノイズ除去性能の高いMLCCの要求も増えてくると考えられます。

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