負性抵抗の原理と回路例

負性抵抗

負性抵抗とは、マイナスの抵抗値を持った素子、または回路で、印加する電圧が大きくなると電流が減少するという特性を持っています。
負性抵抗となる素子としては、トンネルダイオードやサイリスタがありますが、本稿ではオペアンプやトランジスタを使った能動的な回路の動作や用途について解説していきます。

オペアンプを使った負性抵抗回路

下図のようなオペアンプを使った負性抵抗回路を負性インピーダンス変換器といいます。
英語ではNegative Impedance Converterと記載され、NICと略されます。

 負性インピーダンス変換器(NIC)

この回路の入力から見た抵抗Rinを計算します。

バーチャルショートが成立することから、

負性抵抗の計算

よって、電流I1は、

負性抵抗の計算

となり、オペアンプの出力電圧Voutを計算すると、

負性抵抗の計算

となります。
入力に流れる電流Iinは、

負性抵抗の計算

と計算できるので、入力側から見たインピーダンスは、

負性抵抗の計算

で求められ、負の値になっていることが分かります。
ここで、R1=R2とすると、負性抵抗Rinは、

負性抵抗の計算

となり、RFで決まることが分かります。
上記回路ではRF=220Ωなので、負性抵抗は-220Ωとなります。

シミュレーションで特性を確認すると以下のようになります。

負性抵抗の特性

上段の波形が入力電流、下段が入力抵抗(負性抵抗)です。

発振回路への応用

下図のようなLC共振回路を考えます。

共振回路

コンデンサの初期電圧を5V、コイルの初期電流を0Aに設定して過渡解析を実行します。
理想的なLC共振回路では、発振は永遠に継続しますが、実物のコンデンサとコイルは直列抵抗成分を持っているため、抵抗で電力が消費され発振は徐々に減衰していきます。

共振波形

ここに負性抵抗を接続して抵抗成分を打ち消すことで、発振を継続させることができます。

発振回路と負性抵抗
負性抵抗の発振波形

抵抗で失われる電力を負性抵抗が補うイメージです。

負性抵抗は、水晶振動子の発振回路などでも用いられます。

電流帰還時の負性抵抗に注意

電圧クランプ回路などで、消費電流を減らすために出力電流の一部をフィードバックして、出力トランジスタのベースに戻す回路が使われることがあります。

電流帰還クランプ回路

通常、出力電流が増えると出力トランジスタのVBEが低下するため、クランプ電圧は低下していきます。

しかし、基準側のトランジスタのVBEが出力側より極端に大きかったり、レイアウトの不備で基準側トランジスタのエミッタ側に大きな抵抗成分が付いてしまうと、出力電流の増加に伴いクランプ電圧が増大してしまいます。
帰還量が大きすぎると動作が不安定になり、発振に至る場合もあるので注意が必要です。

負性抵抗の特性
動画で電子回路の基礎を学ぶ

Analogistaでは、電子回路の基礎から学習できるセミナー動画を作成しました。

電子の動きをアニメーションを使って解説したり、シミュレーションを使って回路動作を説明し、直感的に理解しやすい内容としています。

これから電子回路を学ぶ必要がある社会人の方、趣味で電子工作を始めたい方におすすめの講座になっています。

電子回路を動画で学ぶ

【内容】

  • 電気回路の基本法則
  • 回路シミュレータの使い方
  • コンデンサ・コイルとインピーダンス
  • フィルタ回路
  • 半導体部品の基礎
  • オペアンプの基礎
関連記事
カレントミラー回路の動作原理と設計計算の方法

カレントミラーとは、電流源で作った基準電流をコピー(複製)する回路です。 電流を鏡のように写すことからその名が付けられています。 本稿では、カレントミラーの原理と、ミラー電流の計算方法について解説します。 INDEXカレントミラーの原理出力電流を2倍にする方法1.並列接続する2.…

プッシュプル回路(トーテムポール出力)とは

プッシュプル回路とは、トランジスタを2つ使って交互に動作させることで増幅、またはスイッチングを行う回路です。 上下に重ねられたトランジスタがそれぞれ電流を流し出す/引き込む動作を行うことが、Push-Pull(押し出す-引き込む)の名前の由来です。 トランジスタが縦積みになってい…

定電流源回路の仕組みと設計方法

定電流源とは、負荷のインピーダンスに関係なく一定の電流を流し続ける回路です。 内部抵抗が大きい(理想的には無限大)ため、負荷の変動によって電圧が変動します。 本稿では定電流源の仕組みと回路例、設計方法をご紹介していきます。 INDEX定電流源の仕組み定電流源回路電圧電流変換回路フ…

インバーテッドダーリントン接続の特徴と発振対策

インバーテッドダーリントン接続とは、NPNトランジスタとPNPトランジスタ組み合わせて構成した高hFEの増幅回路です。 NPN-PNP接続はNPNトランジスタと等価、PNP-NPN接続のものはPNPトランジスタと等価となります。 PNP-NPN接続のものは疑似PNPと呼ばれること…

電流帰還バイアス回路の原理と設計計算の方法

電流帰還バイアス回路とは、エミッタ抵抗によって負帰還(フィードバック)を構成し、ベース電流(バイアス電流)を制御することができる増幅回路です。 エミッタ接地回路と比べ電圧利得は下がるが、周波数特性、ノイズ、歪みが改善し、温度変化によるばらつきも抑えられます。 エミッタ接地回路の特…