ハイサイドスイッチについて解説【仕組みや回路、使い方】

ハイサイドスイッチ

ハイサイドスイッチとは、電源と負荷の間に入れるスイッチ素子(MOSFET)のことです。
電源のオン/オフや、負荷への電流供給/切断を制御する役割を持ちます。

逆に、ローサイドスイッチは負荷とGNDの間に挿入するスイッチ素子です。

ハイサイドスイッチとローサイドスイッチの違い

ハイサイドスイッチ回路

ハイサイドスイッチは、基本的にはPch MOSFETを使って構成します。

Nchの場合、ゲートに入力電圧(VIN)+ゲートしきい値電圧(VTH)を印加する必要があり、入力電圧より高い電圧が必要になりますが、Pchをオンさせる場合はVINーVTHと、入力電圧より低い電圧で済むためです。

ハイサイドスイッチ

※後述しますが、昇圧回路を使ってゲート電圧をVIN以上に持ち上げることでNch MOSFETを使うことができるハイサイドスイッチICもあります。

下記のような使用条件の場合、ハイサイドスイッチを駆動するためのコントローラIC(ドライバIC)が必要になる場合があります。

  • 入力電圧が高い場合
  • 負荷のインピーダンスが低い場合
ハイサイドスイッチドライバIC

入力電圧が高い場合

MOSFETのVDSの耐圧が40Vの製品でも、VGSの耐圧は20V程度しかありません。
例えば、VIN=30VでPchハイサイドスイッチを駆動しようとした場合に、ゲートに0Vを印加してしまうとFETが破壊してしまいます。

対策として、ゲートに印加するLoレベルをクランプする必要があります。
GS間にツェナーを入れて保護する方法もありますが、専用ICならGS間の保護回路が搭載されています。

負荷のインピーダンスが低い場合

負荷のインピーダンスが低い場合、FETのオン抵抗も十分低いものを使用する必要があります。
オン抵抗が小さいほど素子サイズが大きくなり、ゲートに存在する寄生容量も大きくなります。
そうすると、マイコンなどからの直接駆動ではドライブ能力が不足し、オン/オフするまでに時間がかかってしまいます。

その場合、ドライバICを使ってすばやくゲート電圧の切り替えができるようにする必要があります。

Nch MOSFETを使ったハイサイドスイッチ

Pch MOSFETよりもNch MOSFETの方が性能面、コスト面でメリットがあります。
しかし、前述の通り、Nch MOSFETをハイサイドスイッチで使うには、入力電源より高い電圧が必要になります。

入力電圧より高い電圧を生成するために使われるのが、

  • チャージポンプ
  • ブートストラップ

の2つの技術になります。

チャージポンプ方式

入力電源を昇圧し、入力電圧より高い電圧をゲートドライバの電源とすることで、Nch FETをフルオンさせることができます。

チャージポンプ駆動ハイサイドスイッチ

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ブートストラップ方式

FETがオンするとVS電圧が上昇するのを利用し、ゲートドライバの電圧を持ち上げる方式です。
コンデンサとダイオードで構成できるため、チャージポンプよりは簡易な回路で実現可能です。

ブートストラップ駆動ハイサイドスイッチ

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ハイサイドスイッチの用途

ハイサイドスイッチには、以下のような使い方があります。

  • インバータ
  • 電源のオン/オフ
  • 電源ラインの保護
  • LEDドライバ
  • モーター、ソレノイドなどのL性負荷の駆動

大きな電流が必要なパワースイッチとして使う場合は、保護回路が必要な場合が多いため、フェールセーフ機能が統合されたハイサイドスイッチICが使われることがほとんどです。

逆流防止の方法

MOSFETにはドレイン-ソース間に寄生ダイオードが存在します。
寄生ダイオードは出力側から入力側へ向いているため通常動作では問題ありませんが、出力が他の電源に短絡したり、負荷側の電圧残りによって入力側へ逆流してしまう場合があります。

ハイサイドスイッチ回路図 ハイサイドスイッチ逆流

逆流を防ぐ方法としては、以下の3つが考えられます。

1.ダイオードによる逆流防止

最も単純なのが、入力側へダイオードを挿入する方法です。

逆流防止

デメリットは、ダイオードのVF分、負荷に印可できる電圧が下がってしまうことです。

2.バックトゥバックによる逆流防止

バックトゥバック(Back to Back)とは、FETを2つ直列に、ボディダイオードが逆側を向くように接続することです。
これにより、ボディダイオードを介した逆流を防ぐことができます。

バックトゥバック

FETが2つ必要になるため、サイズアップ、コストアップがデメリットになります。

3.バックゲートを切り替える

ディスクリートではできない対策ですが、パワーMOSFET内蔵のハイサイドスイッチの場合、入出力電圧をモニタしてバックゲートを切り替えることで逆流を防止する機能が搭載されたものもあります。

突入電流対策

負荷側の容量が大きい場合、ハイサイドスイッチがオンした瞬間に大きな突入電流が発生します。
突入電流が大きいと、入力電圧が過渡的に落ち込み、同じ入力電源に接続された別のデバイスに誤動作が起きる場合があります。

突入電流を抑えるためには、出力をゆっくり立ち上げる、ソフトスタート回路が必要になります。

ソフトスタート回路とは?動作原理と必要理由を解説

ハイサイドスイッチとローサイドスイッチの違い

ハイサイドスイッチとローサイドスイッチの使い分けや、それぞれのメリット、デメリットについて解説していきます。

ハイサイドスイッチの利点

ハイサイドスイッチは、電流値をモニタすることで、負荷がGNDに短絡したことを検知することができます。
検知してスイッチをオフ状態にすることで安全性を高めることができます。

ハイサイドスイッチの利点

また、GND基準で動作するデバイスへの電源供給(ロードスイッチ)としてもハイサイドスイッチが使われます。

ローサイドスイッチの利点

ローサイドスイッチはGND基準となるため、Nch FETが使えます。
さらに、負荷にかかる電圧が高くてもドライバ回路の電源電圧は5Vなどの低い電圧でよいため、低耐圧素子で構成でき、サイズ、コスト面で有利になります。

ローサイドスイッチのメリット

メリット、デメリットを比較

ハイサイドスイッチとローサイドスイッチのメリット、デメリットの比較表です。

項目 ハイサイドスイッチ ローサイドスイッチ
設計難易度 ×
回路規模
コスト
フェールセーフ性 ×
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