電圧保持回路の役割と設計方法

電圧保持回路

電源保持回路は、バッテリなど外部から機器へ供給している電源が切断されても一定時間、機器内の動作電圧を保持する回路です。
外部電源が切断されると、再起動時に機器が正常に動作しない場合があります。
この問題を防ぐために電源保持回路が必要になるのです。

※電源バックアップと呼ばれることもありますが、電池などを用いた2重系の電源回路と混同されるので、ここで解説するコンデンサによる保持方式を「電源保持回路」と呼称します。

電圧保持回路の役割

デジタル機器をオフさせる時、通常はそれまで処理していたデータを不揮発メモリへ保存したり、マイコンの要求シーケンスに従って終了処理を行います。
電源が急に切断されると、これらの終了処理が行われないため、データが破損したりするため正常に復帰できない場合があるのです。

この問題を防ぐために、電源が切断された場合でも、終了処理が完了するまでの間は動作電源の電圧を保持しておく必要があります。

終了処理シーケンス

回路構成

最も一般的な電圧保持回路は、電源ラインにダイオードを入れ、カソード側にコンデンサを接続する回路です。
通常は外部電源から電圧が供給されますが、電源の切断・電圧の急低下が起こってもダイオードによって逆流が防がれ、コンデンサに溜まった電荷で一定時間電圧を供給し続けることができます。

電圧保持回路
電圧保持シーケンス

電源の切断・電圧の急低下が起こったことを検知し、マイコンは終了処理を開始する必要があります。
そのため、外部電源の電圧を監視し、電圧低下を検知すればマイコンに通知できる回路が必要になります。

電圧保持回路の設計方法

電源保持回路の設計を2つのパターンに分けて解説していきます。

1.機器全体の動作電源を保持する場合

機器全体を保持する場合は、外部電源の入り口にダイオードとコンデンサを設置して電圧を保持します。

電圧保持回路

構成が簡単なことと、機器内の最高電圧で保持できるためコンデンサに貯められるエネルギーが大きくなるというメリットがあります。

デメリットは、保持の必要のないデバイスまで動作してしまうため、不必要に電荷が消費されてしまうことです。
そのため、電源の切断・低下を検知したら、不要なデバイスはすぐに停止させるなどの制御が必要になる場合があります。

2.一部のデバイスの電源のみ保持する場合

終了処理が必要なデバイスに供給している電圧のみ保持する方法です。
次の3つの構成が考えられます。

出力側にダイオードを挿入

電圧保持回路

この場合は出力電圧がダイオードのVF分低下してしまいます。
電圧精度も低くなります。

供給先のデバイスの動作電圧範囲が広く、精度の要求も無い場合に使える構成です。

ダイオードの先から電圧をフィードバックする

電圧保持回路

出力側にダイオードを挿入するのですが、ダイオードの先(カソード側)からレギュレータのフィードバックを取る方法です。
こうすることで、ダイオードのカソード側の電圧を一定の電圧にすることができるので、VFによる電圧低下を気にすることなく、精度の高い電圧をデバイスに供給することができます。

デメリットは、外部フィードバック端子付きのレギュレータが必要なので選択肢が狭まることです。
また、保持動作時にフィードバック端子に電流が逆流することになるので、ICの保証外にならないかメーカーに確認しておく必要もあります。

入力側にダイオードを挿入

電圧保持回路

レギュレータの入力側の電圧を保持する方法です。
供給する電圧の精度も高く、レギュレータの安定性にも問題はありません。

前段にさらにレギュレータがある場合には、保持用の大容量コンデンサへの突入電流が発生するため、前段のレギュレータが停止しないか注意する必要があります。

電圧保持時間の設計計算方法

コンデンサ電圧の電圧保持時間の計算方法について解説していきます。
レギュレータにDCDCコンバータを使うかどうかで計算方法が大きく異なってきますので、2つのパターンに分けて説明します。

DCDCコンバータが無い場合

電圧保持時間の計算

保持回路と負荷デバイスの間にレギュレータが無く直接保持している場合や、DCDCコンバータではなくリニアレギュレータを使っている場合です。
この場合はコンデンサ容量、電圧、消費電流で決まるので計算が簡単です。

コンデンサに溜まった電荷を定電流で放電する計算式で求めることができ、

電圧保持時間の計算

となります。
Vh0は初期状態の保持電圧、Vhlは保持デバイス、またはレギュレータの最低動作電圧です。

DCDCコンバータを使用する場合

保持回路と負荷デバイスの間にDCDCコンバータがある場合、入出力の電力変換を考える必要があります。

DCDCコンバータがある場合の保持電圧計算

DCDCコンバータの入力電流は式から、入力電流は入力電圧によって変化することが分かります。
保持コンデンサで保持している電圧は時間とともに減少してゆき、それに伴いDCDCコンバータの入力電流、つまりコンデンサからの放電電流が増加することになります。

計算式で保持時間を求めようとすると循環してしまうので、微小時間に区切り、その間は定電流とみなしてエクセルで計算させます。

電圧保持時間グラフ

使用したエクセルファイルは以下からダウンロードできます。

ダウンロード
保持時間計算
※上記ファイルをダウンロードした時点で利用規約に同意したものとみなします。

電圧保持時間を延ばす方法

保持時間を延ばす方法としては次のようなことが考えられます。

  • コンデンサの容量を大きくする
  • 保持電圧を高くする(昇圧する)
  • システムの最低動作電圧を下げる
  • DCDCコンバータの効率を上げる
  • 理想ダイオードを使用する
  • 終了処理の消費電流を減らす

この記事のキーワード

関連記事
スナバ回路とは?動作原理と定数の決め方を解説

スナバ回路とは、FETスイッチなどの切り替わり時に発生する高周波リンギングを吸収するノイズ対策回路です。 最もよく使われるのが、抵抗とコンデンサで構成されるRCスナバ回路です。 スナバ回路の設計計算は難しく、なんとなくで定数を決めている場合が少なくありません。 ここでは、実際の開…

スイッチトキャパシタ電源の動作原理【昇圧・降圧・双方向動…

スイッチトキャパシタ電源とは、スイッチによってコンデンサの接続を切り替えることで、昇圧または降圧が可能なDCDCコンバータ回路です。 フィードバック制御を行い、定電圧制御が可能なスイッチトキャパシタ・レギュレータICもあります。 INDEXスイッチトキャパシタの基本的な仕組み回路…

過電圧保護とは?回路構成と機能を解説

過電圧保護とは、外部からのサージ電圧から内部回路を守るための回路、またはデバイスの異常で出力が過電圧状態になった際に後段デバイスを保護するための機能です。 OVP(Over Voltage Protection)と呼ばれたり、OVLO(Over Voltage Lock Out)…

LDOの基礎から応用まで全てを解説

本記事では、LDOを使った電源設計ができるようになるために必要な全ての知識を、基礎から応用まで分かりやすく解説していきます。 INDEXLDOとは?シリーズレギュレータとの違いスイッチングレギュレータとの違い仕組みと動作原理データシートの見方出力電圧範囲最大出力電流電圧精度出力電…