チャージポンプの仕組み、動作原理を回路図とシミュレーション波形を使って解説
チャージポンプとは、コンデンサとダイオード(スイッチ)を組み合わせて出力電圧を昇圧する回路で、DCDCコンバータの一種です。
充電されたコンデンサの下端電圧の上げ下げを繰り返すことで、ダイオードのカソード側に入力電圧より高い電圧を出力することができます。
チャージポンプの動作原理は、スイッチトキャパシタを応用したものです。
スイッチトキャパシタ電源については下記記事をご参照ください。
スイッチトキャパシタ電源の動作原理【昇圧・降圧・双方向動作が可能】
チャージポンプの基本的な仕組み
チャージポンプの基本動作は下図のようになります。
※説明を分かりやすくするため、ダイオードのVFは無視します。
まず、VINから1段目のコンデンサ:C1に充電され、C1の上端電圧は5Vになります。
C1の下端はドライバ回路に接続されており、入力からの充電時は0Vを出力しています。
したがって、C1の両端電位差は5Vになります。
次に、ドライバ回路の出力が0Vから5Vに切り替わります。
C1の下端電圧が0V⇒5Vになりますが、C1の両端電位差は維持されるため、C1の上端電圧が5V+5V=10Vになります。
この時、ダイオードを通して出力側へ昇圧された電圧が充電されます。
出力に負荷がある場合、C2に溜まった電荷が消費されていきますが、上記を動作を繰り返すことで、毎回C1からC2側へ消費した分の電荷が供給され昇圧された電圧を維持することができます。
動作原理と動作波形
下図のような2倍昇圧(ダブラー)回路を考えます。
このシミュレーション回路でも、話を簡単にするためVF=0Vとなる理想ダイオードを用いています。
シミュレーション波形は下図のようになります。
動作開始前(0us~10usまで)は、入力電源から充電され、ポンピングコンデンサ:C1も出力コンデンサ:C2も5Vまで充電されています。
ドライバのHi⇔Lo動作が開始されると、徐々に出力電圧が昇圧されていきます。
上記回路では、C1とC2は同じ容量を使っているため、出力側へ転送される電荷は、充電された電荷の半分になります。
C2がC1より大きくなると、その分出力電圧が10Vに達するまでの時間が長くなります。
LTspiceのシミュレーション回路は以下よりダウンロードして頂けます。
3倍昇圧回路(トリプラー)
チャージポンプは、昇圧回路を積み重ねることで、出力電圧を2倍、3倍…と上げていくことができます。
下図は3倍昇圧回路の例です。
この回路でシミュレーションを行った波形が下図になります。
Vdの地点までが2倍昇圧回路になります。
Vdを起点として2つ目のチャージポンプ回路を追加することで、さらに5Vを昇圧することができ、出力が15Vまで持ち上がっています。
反転型チャージポンプ
チャージポンプは、出力の正負を反転させ、負電圧を生成することができます。
回路は下図のように2倍昇圧チャージポンプのダイオードを逆向きにしたような回路になります。
動作波形は下図のようになります。
C1の上端が0V、下端が5Vに充電された状態からドライバの出力が5V⇒0Vに変化すると、C1の下端が0V、上端が0V⇒-5Vとなります。
この時、出力側からC1側に電流を引き込むため、出力電圧も負電圧となります。
チャージポンプの設計計算
チャージポンプの電流能力やリップル電圧を計算するのは少し分かりにくいため、カット&トライで設計している場合も少なくないと思います。
できるだけ分かりやすく、チャージポンプの設計計算について説明していきたいと思います。
電流能力の計算
スイッチング1周期に負荷電流:Ioutで消費される電荷量は、
Qo = Iout × T = Iout / fsw
となります。
Tは一周期の時間、fswはスイッチング周波数です。
ロードレギュレーションとして許容される電圧降下をΔVとすると、
Iout / fsw = C1 × ΔV
よって電流能力は
Iout = C1 × ΔV × fsw
となります。
上記計算式より、電流能力はポンピングコンデンサの容量とスイッチング周波数に依存していることが分かります。
C1=1uF、fsw=100kHz、ΔV=0.5Vとすると、Iout=50mAとなります。
下図がシミュレーション結果の波形です。
リップル電圧の計算
ポンピングコンデンサ:C1より出力コンデンサ:C2の容量が十分大きい場合、C1の影響は無視でき、下記のような単純な計算式でリップルが計算できます。
C1とC2の容量値が近い場合は、以下のような計算式になります。
tonはドライバがHiの時間、toffはドライバがLoの時間です。
電圧制御型チャージポンプ
これまでに紹介したチャージポンプは出力電圧を細かく設定することができませんが、電圧を一定に保つ手段はいくつかあります。
レギュレーテッド・チャージポンプと呼ばれることもあります。
ヒステリシス制御
チャージポンプの出力をコンパレータでモニタし、電圧が目標値に達したらポンピング動作を停止、電圧が低下すると再び動作を開始させます。
ヒステリシスの分の電圧変動が発生するため、リップルが大きくなってしまうのがデメリットです。
チャージポンプ+レギュレータ
チャージポンプとシリーズレギュレータを組み合わせて出力電圧を制御するタイプです。
昇圧された電圧が出力電圧と近い場合はレギュレータの損失が少ないのですが、電圧差が大きいと損失が大きくなり効率が悪化します。
周波数変調(PFM)型
スイッチング周波数を変えることで電流能力を調整し、所望の出力電圧になるように制御する方式です。
インダクタレスDCDCコンバータとも呼ばれます。
下図はアナログデバイセズのLTC3245のシミュレーション波形です。
負荷電流が増加すると、スイッチング周波数を上げて電流能力をアップさせることで電圧を制御しているのが分かります。
出力電圧精度も良く、効率も良いのがメリットですが、スイッチング周波数が固定できないので、ノイズの問題が起こる懸念がるのがデメリットです。
ディスクリートで自作する場合
専用ICを使わずに、コンデンサ、ダイオード、トランジスタで自作する簡易チャージポンプ回路です。
ドライバは貫通を気にしなくてよいエミッタフォロワ型のプッシュプルにしていますので、出力電圧範囲がVBE分狭くなるため、昇圧電圧が低くなります。
ダイオードのVFを加味すると、8.5V程度までしか昇圧できないことになります。
電流制限抵抗は、ドライバHi時にコンデンサへ充電するラッシュ電流を抑えるためのものです。
この回路ではドライバの電流能力がそれほど高くないので無くても問題ないのですが、ドライバの電流能力が高いとスパイク電流によって入力電源が低下し、問題を引き起こす場合があります。
抵抗が大きすぎると、電流能力が低下するため、バランスを取る必要があります。