カレントミラー回路の動作原理と設計計算の方法
カレントミラーとは、電流源で作った基準電流をコピー(複製)する回路です。
電流を鏡のように写すことからその名が付けられています。
本稿では、カレントミラーの原理と、ミラー電流の計算方法について解説します。
カレントミラーの原理
カレントミラーは、2つのトランジスタのベース同士をつないだ構成を取ります。
参照電流を入力する側のトランジスタはコレクタ-ベースをショートしてダイオード接続とします。
ベース同士がショートされているので
が成り立ちます。
VTは熱電圧、Isatは飽和電流です。
2つのトランジスタが完全に等しければ飽和電流も同じ値になるので、コレクタ電流は、
となり、参照電流と同じ電流がQ2に出力されることが分かります。
出力電流を2倍にする方法
ミラー電流を参照電流の2倍、又は任意の値にする方法は3つあります。
1.並列接続する
ミラーするトランジスタを2つにすることで、電流を2倍にすることができます。
並列接続数を増やすことで、参照電流のn倍の電流を出力することができます。
2.サイズ比を変更する
IC設計で主に用いられる方法です。
飽和電流はエミッタ面積に比例するため、エミッタ面積が2倍の素子をミラー側に用いることで、参照電流の2倍の電流を出力することができます。
素子サイズを変更することで、任意の電流値を出力することができます。
3.エミッタ抵抗で調整する
ミラー側にエミッタ抵抗を挿入してミラー電流を調整します。
ベース電圧が等しくなることから、
で所望のIC2にするためのエミッタ抵抗を計算することができます。
IC1=10uA、IC2=20uA、RE1=10kΩとする場合のRE2は、
RE2 = ( 1 / 20u ) × 26m × ln( 10u / 20u ) + ( 10u / 20u ) × 10k = 4.1kΩ
と計算できます。
誤差の原因
ミラーされた電流値は、参照電流に対しわずかに誤差が発生します。
誤差の原因には大きく2つあります。
1.ベース電流の影響
電流源から供給される参照電流の一部はベース電流として供給されるため、参照電流とミラー電流には2IBの電流差が発生します。
後述しますが、ベース電流を補償して、誤差をなくす手法がいくつかあります。
2.アーリー効果の影響
バイポーラトランジスタは、VCEの電圧によってコレクタ電流が変化します。
したがって、入力側と出力側のVCEの差によってコレクタ電流のずれが発生します。
MOSFETで構成したカレントミラーの場合も同様のことが起こります。
チャネル長変調効果によって、VDSが大きくなるほどドレイン電流が増加するためです。
こちらも後述しますが、アーリー効果やチャネル長変調効果を抑えて誤差をなくす手法があります。
カレントミラーの高精度化
前項で解説した電流誤差を小さくすることができる高精度カレントミラー回路について解説していきます。
1.ベース電流補償型カレントミラー
ベース電流を供給するためにトランジスタを1つ追加した回路です。
これにより誤差は2IB / hFEに圧縮されます。
ただし、アーリー効果による誤差は発生します。
2.カスコードカレントミラー
カレントミラーを2段縦積みにした構成です。
Q1、Q2のコレクタ電圧が等しくなるため、アーリー効果が低減できますが、ベース電流による誤差は発生します。
MOSFETで構成した場合はチャネル長変調効果が低減できるため、かなり高精度化できます。
3.ウィルソンカレントミラー
下図がウィルソンカレントミラーです。
ベース電流による誤差を無くすと共に、Q1のコレクタ電圧が2VBE、Q2がVBEとなるため、アーリー効果による誤差も抑えることができます。
4.高精度ウィルソンカレントミラー
ウィルソンカレントミラーを改良し、高精度化した回路です。
Q1とQ2のコレクタ電圧も一致させて、アーリー効果による影響もなくしています。