フラバックコンバータの動作原理と回路設計の手順を解説
フラバック電源とは、スイッチング電源の方式の一つで、1つのスイッチング素子とトランスを使って電力変換を行います。
AC/DCコンバータ等で使用され、ダイオードブリッジで整流された直流電圧を目的の出力電圧に降圧することができます。
本稿ではフラバックコンバータの動作原理、周辺部品の選定を含めた設計方法について解説していきます。
動作原理
絶縁型フライバックコンバータの回路構成は下図のようになります。
- トランス
- スイッチング制御IC
- シャントレギュレータ
- フォトカプラ
が主な構成部品となります。
スイッチング制御ICにはスイッチングFETが内蔵されています。
シャントレギュレータで基準電圧を決めて出力電圧と比較し、フォトカプラで1次側のスイッチング制御ICへフィードバックを行います。
スイッチングFETがオンするとトランスの一次側にエネルギーを溜め、オフ時に2次側へエネルギーを伝送します。
入出力電圧に応じてスイッチングのオン期間をICが制御し、目標の電圧になるように制御されます。
下図が動作波形です。
一次側スイッチング波形はスイッチングFETのドレイン電圧をモニタしたものです。
二次側スイッチング波形はショットキーダイオードのアノード側の電圧です。
次に、フライバックコンバータの制御メカニズムを、フライバックICの内部回路を交えて解説していきます。
フライバックICの内部回路と制御メカニズム
一般的な電流モード制御のフライバックコンバータの回路を下図に示します。
電流モード制御とは?
各ブロックごとに動作を解説していきます。
フィードバック部
出力電圧は、シャントレギュレータと抵抗R1、R2によって次のように設定されます。
Vo = Vref × (R1 + R2 ) / R2
シャントレギュレータは、出力電圧が目標電圧になるようにI1の電流値を調整します。
I1はフォトカプラを通じて1次側へフィードバックされます。
フォトカプラが出力する電流:I2は、入力電流:I1にCTR(電流伝達比)をかけた値になります。
I2がプルアップ抵抗:R3で電圧変換され、制御ICのフィードバック端子に入力されます。
R3はICに内蔵されている場合もあります。
PWM制御部
スイッチング周波数を決めているパルスがフリップフロップのセット端子に入力され、スイッチングFETをオンさせます。
スイッチングFETがオンすると、ソース側の電流センス抵抗に電流が流れ電位差が発生します。
その両端を電流センスアンプ(CSA)でモニタし、電圧変換してPWMコンパレータに出力します。
PWMコンパレータの反転端子側にはフィードバック電圧が入力されています。
スイッチングFETがオンして電流が増加していき、CSAの出力電圧がVFBを超えるとコンパレータ出力が反転し、フリップフロップがリセットされFETがオフされます。
以上の動作により、スイッチングDUTYが制御されて一定の出力電圧が維持されます。
LTspiceのシミュレーション回路は下記よりダウンロードして頂けます。
動作モード
フライバックコンバータの動作モードは下記の3つがあります。
- 不連続モード
- 臨界モード
- 連続モード
それぞれについて解説していきます。
不連続モード
不連続モードとは、スイッチングのオフ期間内に二次側の順方向電流がゼロに達し、電流が流れていない期間ができるモードです。
DCM(Discontinuous Current Mode)とも呼ばれます。
不連続モードのメリット
1.小型化できる
トランスのインダクタンスを小さくできるため、トランスを小型化できます。
2.オン損失がない
FETがオンする際、一次側トランスの電流は0Aから上昇し始めるため、オン側のスイッチング損失がありません。
3.逆回復損失がない
FETがオンするまでに二次側のダイオードに流れる電流がゼロになっているため、ダイオードがオフするまでの逆回復時間中に発生する損失がありません。
連続モード
連続モードとは、スイッチングのオフ期間内に二次側の順方向電流がゼロに達せず、流れ続けているモードです。
CCM(Continuous Current Mode)とも呼ばれます。
連続モードのメリット
1.リップル電圧が小さい
電流のリップルが抑えられるため、ピーク電流が小さく、出力のリップル電圧も抑えられます。
2.ノイズが小さい
一次側、二次側共に電流の振幅が小さくなるため、ノイズの発生を抑制できます。
臨界モード
臨界モードとは、二次側電流がちょうどゼロに達したところでターンオンさせる制御です。
BCM(Boundary Current Mode)とも呼ばれます。
PWM制御では単に不連続と連続モードの間のモードですが、PFM制御であれば常に臨界モードで動作させることができます。
臨界モードのメリット
臨界モードのメリットは不連続モードと同様で、
- 小型化できる
- オン損失がない
- 逆回復損失がない
というものがありますが、不連続モードよりもピーク電流が小さいため効率が良く、ノイズも少ないという特徴も備えています。
メリット、デメリットを比較
3つの動作モードの特徴をまとめると、以下のようになります。
項目 | 不連続モード | 連続モード | 臨界モード |
---|---|---|---|
トランスのサイズ | ○ | × | △ |
整流ダイオード | ファストリカバリで良い | ショットキーが必要 | ファストリカバリで良い |
スイッチング周波数 | 固定(PWM) | 固定(PWM) | 不定(PFM) |
リップル電圧 | × | ○ | △ |
ノイズ | × | ○ | △ |
効率 | ○ | × | ◎ |
設計と計算方法
トランスやMOSFETなどの周辺部品の選定や各種部品の定数を選定するための設計計算の方法について解説していきます。
1つ条件を決めて計算を進め、都度調整していくというやり方になるため、設計者によって手順は様々です。
ここで挙げる手順もその一例になります。
1.フライバック電圧を決める
フライバック電圧とは、スイッチングFETがオフした際にトランスによって発生する電圧で、入力電圧より高くなる部分の電圧のことです。
入力電圧+フライバック電圧がスイッチングFETのドレインに印加されることになるので、使用予定のMOSFETの耐圧からマージンを取ってフライバック電圧を決めます。
2.巻線比を計算
フライバック電圧:VRが決まると、巻線比が決まります。
巻線比:nは以下の式で与えられます。
Np:一次側の巻線数、Ns:二次側の巻線数、Vo:出力電圧、VF:二次側の回生ダイオードの順方向電圧
3.ダイオードの逆方向電圧を計算する
巻線比が決まるとダイオードにかかる逆方向電圧が計算できるので、選定するダイオードの耐圧を決めることができます。
スイッチングFETオン時に発生するダイオードカソード側の電圧は、Vdc/nとなるので、逆方向電圧:Vrdは、
となります。
4.DUTYの計算
DUTYは以下の式で計算できます。
極端に大きかったり、小さい場合はVRを変更してDUTYを調整します。
オン時の1次側に蓄えられるエネルギーと、オフ時に二次側に伝送されるエネルギーが等しいことから、
DUTYは、
ここに、
を代入すると、
5.トランスのインダクタンスを計算
前項で設定した条件で臨界モードとなるように二次側のインダクタンスLsを設定します。
ピーク電流:Ipeakと出力電流:Ioの関係は、
次にインダクタンスと電流変化の関係式、
を使ってIpeakを導くと、
上記2式より、
トランスの巻線比の関係より、一次側のインダクタンス:Lpは、
となります。
6.巻数の決定
トランスのメーカーカタログを見ると、出力電力の目安が書かれていますので、使用電力条件からトランスコアのサイズが決まってきます。
メーカーにもよりますが、カタログにAL値が記載されています。
AL値とは、巻数とインダクタンスの関係を表す係数で、
の関係があります。
単位はnH/N2です。
AL-valueやインダクション係数と記載されている場合もあります。
AL値より二次側の巻数は、
したがって、一次側の巻数は、
と決まります。
7.補助巻線数の決定
AC/DCコンバータの場合、Vdcは非常に電圧が高く、制御ICの定格を超えるため、そのままICの電源としては使えません。
そこで、補助巻線(VCC巻線)を使って降圧した電圧をICの電源として使います。
設定したVCC電圧より、必要な巻数が計算できます。