LCフィルタの設計方法

LCフィルタ

LCフィルタとは、コイルとコンデンサを組み合わせて任意の周波数帯域の信号を遮断したり通過させたりする回路です。
LとCの2つのリアクタンスを持った2次フィルタなので、1次フィルタであるRCフィルタよりシャープな特性が得られます。

本稿では、LCフィルタの設計計算、部品定数の選定方法について解説していきます。

LCフィルタの用途

LCフィルタの用途は

  • ローパスフィルタ
  • ハイパスフィルタ
  • バンドパスフィルタ

の3つがあります。

ローパスフィルタ

ローパスフィルタは低周波と通過させ高周波を遮断します。
高周波ノイズの除去やオーディオの高音域のカットなどに使われます。

LCフィルタの特性

ローパスフィルタには4つの種類があります。

L型フィルタ(L-C型)

LCフィルタ(L型)

最も良く使われるLCフィルタの形です。

インダクタは高周波を高インピーダンスで遮断し、コンデンサは高周波を低インピーダンスでバイパスします。
したがって、この回路では入力側のインピーダンスが低く、出力側のインピーダンスが高い場合に使われます。

L型フィルタ(C-L型)

L型フィルタ(C-L型)

L-C型とは逆で、入力側のインピーダンスが高く、出力側のインピーダンスが低い場合に使われます。

π型フィルタ

π型フィルタ

ギリシャ文字のπ(パイ)の形になっていることからπ型フィルタと呼ばれます。

入出力側ともにコンデンサが接続されているため、入力側のインピーダンス、出力側のインピーダンスともに高い場合に使われます。

T型フィルタ

T型フィルタ

アルファベットのTの形になっていることからT型フィルタと呼ばれます。

入出力側ともにインダクタが接続されているため、入力側のインピーダンス、出力側のインピーダンスともに低い場合に使われます。

ハイパスフィルタ

LCハイパスフィルタ

ハイパスフィルタは低周波を遮断し、高周波を通過させます。
オーディオの低音域のカットなどに使われます。

LCハイパスフィルタ特性

バンドパスフィルタ

LCバンドパスフィルタ

バンドパスフィルタは特定の周波数帯域のみ通過させます。
選局したラジオの受信周波数に合わせて帯域を設定するなどの用途で使われます。

LCバンドパスフィルタ

LCフィルタの設計

LCローパスフィルタを考えます。

LCフィルタ(L型)

カットオフ周波数の計算

カットオフ周波数は以下の式で計算できます。

LCフィルタのカットオフ周波数計算

カットオフ周波数の求め方

L=10uH、C=100uFとすると、カットフ周波数は5.0kHzとなります。

カットオフ周波数

伝達関数

LCフィルタの伝達関数は以下のようになります。

LCフィルタの伝達関数

Rは出力側の負荷抵抗です。

RCフィルタとLCフィルタの伝達関数を計算する方法

Q値の計算

Q値はQuality factorの頭文字を取っており、フィルタのQuality(質)を定量的に表す値です。
Q値が高いほどフィルタの特性が鋭くなります。

Q値別特性

Q値は以下の式で計算できます。

Q値の計算式

設計ツールを使って設計する

これまでは理想的な条件での計算方法について解説してきました。
しかし、ノイズ対策などでより高周波の特性が必要になる場合、素子の寄生パラメータも含めて考える必要があります。
そのため、机上で計算するには複雑になるのでツールを使って設計を進めます。

ここでは、LTspiceを使って特性をシミュレーションする方法について解説していきます。

LCの寄生素子を含めて、下図のようなπ型フィルタを考えます。

π型フィルタ回路

この回路でAC解析を行うと以下のような周波数特性になります。

π型フィルタ周波数特性

3.6MHz付近でコイルの浮遊容量によりインピーダンスが下がり、ノイズ除去性能が悪化します。
コンデンサもESR、ESLの影響で高周波でインピーダンスが大きくなるため、やはりノイズ除去性能が悪化します。

このように、高周波のノイズ除去の特性を確認するためには、寄生素子の影響も考慮に入れる必要があります。

LCフィルタとRCフィルタの違い

同じカットオフ周波数のRCローパスフィルタとLCローパスフィルタの特性を比較します。

LCフィルタとRCフィルタの違い

RCフィルタの減衰特性は-20dB/decですが、LCフィルタは-40dB/decとなり、LCフィルタの方がシャープな特性を得られます。
LとCはインピーダンスにリアクタンス(虚数成分)を持つため、LCフィルタは2次フィルタ、RCフィルタは1次フィルタと呼ばれ、これが特性の差に現れます。
下記の記事でRLCのインピーダンス、リアクタンスについて解説しています。

インピーダンスとは?わかりやすく解説

また、LCフィルタの場合は共振周波数でゲインの盛り上がりができます。
入力にステップ変動を与えると、LCフィルタの場合は共振周波数でリンギングが発生します。

ステップ変動

Q値が大きいほどリンギングの振幅が大きくなります。

動画で電子回路の基礎を学ぶ

Analogistaでは、電子回路の基礎から学習できるセミナー動画を作成しました。

電子の動きをアニメーションを使って解説したり、シミュレーションを使って回路動作を説明し、直感的に理解しやすい内容としています。

これから電子回路を学ぶ必要がある社会人の方、趣味で電子工作を始めたい方におすすめの講座になっています。

電子回路を動画で学ぶ

【内容】

  • 電気回路の基本法則
  • 回路シミュレータの使い方
  • コンデンサ・コイルとインピーダンス
  • フィルタ回路
  • 半導体部品の基礎
  • オペアンプの基礎
関連記事
カップリングコンデンサの仕組みと役割

カップリングコンデンサとは、直流を通さず、交流だけを通過させ取り出す目的で使われるコンデンサです。 入力と出力の間に直列に挿入して使われます。 日本語で「結合コンデンサ」と呼ばれる場合もあります。 INDEXカップリングコンデンサを使用する目的カップリングコンデンサの仕組みと原理…

定電流源回路の仕組みと設計方法

定電流源とは、負荷のインピーダンスに関係なく一定の電流を流し続ける回路です。 内部抵抗が大きい(理想的には無限大)ため、負荷の変動によって電圧が変動します。 本稿では定電流源の仕組みと回路例、設計方法をご紹介していきます。 INDEX定電流源の仕組み定電流源回路電圧電流変換回路フ…

逆起電力の発生原理と対策をわかりやすく解説

逆起電力とは、誘導性負荷駆動回路において、駆動回路オフ時に発生する逆方向の電圧のことです。 コイルサージ、逆起電圧とも呼ばれます。 逆起電力は瞬間的に発生する大きなサージ電圧となるため、接続されている電子デバイスの誤動作の原因になったり、最悪破壊してしまう可能性があります。 IN…

RCフィルタとLCフィルタの伝達関数を計算する方法

アナログ回路設計者にとって、伝達関数は取っ付きにくく苦手意識がある方も少なくないでしょう。 ここでは、よく使うRCフィルタ、LCフィルタに絞って伝達関数を分かりやすく解説していきたいと思います。 INDEXLCのインピーダンスRCフィルタの伝達関数LCフィルタの伝達関数 LCのイ…