プッシュプル回路(トーテムポール出力)とは
プッシュプル回路とは、トランジスタを2つ使って交互に動作させることで増幅、またはスイッチングを行う回路です。
上下に重ねられたトランジスタがそれぞれ電流を流し出す/引き込む動作を行うことが、Push-Pull(押し出す-引き込む)の名前の由来です。
トランジスタが縦積みになっている様子がトーテムポールをイメージさせることから、トーテムポール出力とも呼ばれます。
プッシュプル回路の種類
プッシュプル回路には、エミッタフォロワ型とエミッタ接地型の2種類があります。
エミッタフォロワ型
オペアンプの出力段やオーディオアンプでよく使われる方式です。
スイッチング回路としても使えますが、出力電圧の範囲が上下ともVBE分狭くなるというデメリットがあります。
エミッタ接地型
レール-トゥ-レールで出力できるのがメリットで、負荷をスイッチング駆動させるドライバ回路の出力段として使われます。
上下のトランジスタが同時にオンしないように制御する必要があるため、回路がやや複雑になります。
コンプリメンタリ(相互補完)
プッシュプルで用いられる2つのトランジスタは特性が似ているものを選ぶ必要があります。
NPNとPNPで動作は逆だが特性が近いもののペアをコンプリメンタリトランジスタと呼びます。
トランジスタを選定する際にはコンプリメンタリ設定されているものの中から選ぶこととなります。
例えば、ロームの2SC4081と2SA1576がコンプリメンタリとして設定されています。
プッシュプル回路の動作原理
増幅回路、スイッチング回路それぞれについて動作を解説していきます。
増幅回路の動作原理
入力が0.6V以上になるとNPNトランジスタがオンし、電流を流し出します。
逆に、-0.6V以下になるとPNPトランジスタがオンし、電流を引き込みます。
したがって、入力電圧と出力電圧の関係は以下のようになります。
NPNが動作している領域では、出力電圧はVin-VBE、PNPが動作している領域では、出力電圧はVin+VBEとなります。
-0.6V<Vin<0.6Vの範囲では両方のトランジスタがオフの状態となっています。
これにより生じる出力の歪みをクロスオーバー歪みと呼びます。
クロスオーバー歪みを対策するためには、バイアスをかけて両方のトランジスタが動作している領域を作る必要があります。
このバイアスをかけた回路をAB級アンプと呼びます。
この回路の動作波形は以下のようになり、歪みがなくなっていることが分かります。
スイッチング回路の動作原理
入力がLoの時はPNPがオンでNPNがオフ、入力がHiの時はPNPがオフしてNPNがオンです。
したがって、入出力の位相は逆転します。
PNPはVcc-0.6V以下の入力電圧でオンし、NPNは0.6V以上の入力電圧でオンするため、共通の入力信号ではほとんどの領域で上下のトランジスタが同時にオンし、貫通してしまいます。
エミッタフォロワ型と違い両方のトランジスタがベタオンするため、同時オンすると大きな電流が流れてしまい、最悪トランジスタが破壊してしまうのです。
入力の立ち上がり、立ち下がりのスルーレートが十分高ければ、同時オンの時間が短くなり、対策回路が不要な場合もあります。
トランジスタの同時オンを防ぐためには、デッドタイムを設けます。
デッドタイムとは、入力のHi/Loの切り替わり時に両方のトランジスタをオフさせる時間のことです。
RCによる遅延回路でデッドタイムを設定しています。
信号の遷移時間やトランジスタの応答時間より長くデッドタイムを設定することで、同時オンを防ぐことができます。