スイッチングレギュレータとは?動作原理を基礎から解説
スイッチングレギュレータとは、スイッチング素子を制御して交流から直流、または直流から別の電圧の直流への変換を行うレギュレータ回路です。
スイッチング素子のオン/オフ比を変えることで所望の出力電圧を得ることができます。
スイッチングレギュレータの大きな特徴は、90%以上の電力変換効率を出せることであり、より大きな電流、電力を扱うシステムで採用されます。
また、高効率であることを利用し、スタンバイ時に低消費電力が求められるシステムにも採用されています。
動作原理
降圧型DCDCコンバータタイプのスイッチングレギュレータを例に挙げ解説します。
下図は、スイッチングレギュレータの簡略図です。
交互にオン/オフするスイッチが2つと平滑用のコイル、コンデンサで構成されます。
スイッチング動作は以下のようになります。
PWM信号によってスイッチのオン/オフが制御され、スイッチング波形(SW1とSW2の中点の電位)が生成されます。
それをLCフィルタで平滑することで出力電圧が得られます。
PWMとはPulse Width Modulationの略で、パルス幅変調のことです。
スイッチング波形のパルス幅を変えることで、出力電圧を変えることができます。
出力電圧とパルス幅の関係式は以下のようになります。
VOUT = VIN × D
DはオンDUTYで、スイッチング波形のオン/オフ比です。
D = Ton / (Ton + Toff)
Tonはスイッチングがオン(Hi)の時間、Toffはオフ(Lo)の時間を表します。
例として、入力電圧:VIN=12Vで出力電圧:VOUT=5Vを出力する場合を考えると、オンDUTYは
D = 5V / 12V = 41.67%
となり、オン/オフ比が41.67%のPWM信号を生成して制御することになります。
PWM信号は、スイッチングレギュレータICの内部で生成されます。
出力をフィードバック回路でモニタし、狙った出力電圧になるようにオンDUTYを制御します。
内部回路の動作原理や、DCDCコンバータICを使った設計方法は以下の記事をご参照ください。
DCDCコンバータとの違い
DCDCコンバータは入力された直流電源を別の電圧の直流電源に変換する装置です。
スイッチングレギュレータは、DCDC変換を行うための回路方式の1つです。
リニアレギュレータ(LDO)もDCDCコンバータの回路方式の1つになります。
スイッチングレギュレータの用途
スイッチングレギュレータは下記のような使い方ができます。
- DC/DCコンバータ
- AC/DCコンバータ
- 暗電流低減
DC/DCコンバータ
前述していますが、DCDCコンバータとしてスイッチングレギュレータが利用されます。
リニアレギュレータに比べスイッチングレギュレータは損失が少ないため、高効率で発熱の少ないDCDCコンバータを構成することができます。
AC/DCコンバータ
交流から直流へ電力変換する装置(AC/DCコンバータ)としてもスイッチングレギュレータが利用されます。
下図はスイッチング方式のAC/DCコンバータのブロック図です。
暗電流低減
モバイル機器や自動車など、バッテリで動作している機器は特に、スタンバイ状態の消費電流を減らす必要があります。
リニアレギュレータの場合、負荷デバイスの消費電流は全てバッテリ側に見えてきます。
しかし、スイッチングレギュレータの場合は電力変換により入力電流を減らすことができます。
例えば、入力電圧が12V、出力電圧が5V、負荷電流が100uA、効率が90%とした場合、入力電流(バッテリの消費電流)は、
Iin = 5V × 100uA × 0.9 / 12V = 37.5uA
となります。
種類と方式
スイッチングレギュレータは下記のように分類されます。
項目 | 変換型 | 回路方式 |
---|---|---|
スイッチング レギュレータ |
絶縁型 | フライバック |
フォワード | ||
プッシュプル | ||
ハーフブリッジ | ||
フルブリッジ | ||
非絶縁型 | 非同期整流 | |
同期整流 | ||
SEPIC | ||
CUKコンバータ | ||
Zetaコンバータ |
大きくはトランスを使った絶縁型とコイルを使った非絶縁型に分かれます。
絶縁型、非絶縁型共に様々な回路方式があります。
さらにスイッチングレギュレータには下記のように様々な制御方式が存在します。
項目 | 方式 |
---|---|
出力方式 | 降圧 |
昇圧 | |
昇降圧 | |
反転 | |
スイッチング方式 | PWM |
PFM | |
RCC | |
フィードバック方式 | 電流モード |
電圧モード | |
ヒステリシス制御 (バンバン制御) |
効率、損失の計算方法
スイッチングレギュレータの損失には、導通損失とスイッチング損失があります。
導通損失は素子に流れる電流と抵抗成分によって発生する損失、スイッチング損失はスイッチング素子がオンからオフ、オフからオンに切り替わる際に発生する損失です。
例として、下図のような非同期整流型の降圧スイッチング電源で考えてみましょう。
出力電圧は5Vとします。
導通損失の計算
導通損失は、FETのオン抵抗、ショットキーダイオードのVF、コイルのDCRによる電圧降下によって発生します。
導通損失:Pcは以下のように計算できます。
Pc = Ron × Iout2 × D + VF × Iout × (1 – D) + Rdcr × Iout2 = 0.525W
スイッチング損失の計算
はじめにFETがオフからオンに切り替わる際の損失を計算します。
スイッチング期間の損失:Prは、
Pr = VIN / 2 × ( IOUT – Iripple / 2 ) × Tr / T
で表されます。
TrはVDSがVINから0Vまで変化する時間=10ns、Tはスイッチングの1周期の時間=2usです。
リップル電流:Irippleは以下の計算式から導けます。
ΔV = L × dI / dt
dI = ( 10V – 5V ) × 1us / 10uH = 500mA
ΔV:コイルの両端電位差、dI:コイル電流の変化量、つまりリップル電流、dt:FETのオン時間
したがって、オフ⇒オン時のスイッチング損失は、
Pr = 10V / 2 × (1A – 500mA / 2 ) × 10ns / 2us = 18.75mW
となります。
同様に、オン⇒オフ時のスイッチング損失も考えます。
スイッチング期間の損失:Pfは、
Pf = VIN / 2 × ( IOUT + Iripple / 2 ) × Tf / T
で表されます。
TrはVDSが0VからVINまで変化する時間=10nsです。
したがって、オン⇒オフ時のスイッチング損失は、
Pf = 10V / 2 × (1A + 500mA / 2 ) × 10ns / 2us = 31.25mW
となります。
よって、スイッチング損失の合計は、
Psw = 18.75mW + 31.25mW = 50mW
となります。
ゲート損失
FETのゲート充放電による損失です。
ゲート容量:Cg=1000pF、ゲートドライブ電圧:Vgs=5Vとすると、ゲート損失Pgは
Pg = Cg × Vgs2 × Fsw = 12.5mW
となります。
制御部損失
スイッチング制御ロジックなどの制御部の損失です。
制御ブロックの消費電流:Icc=5mAとすると、損失:Pcntは
Pcnt = VIN × Icc = 50mW
となります。
効率の計算
効率は次の計算式で求められます。
η = VOUT × IOUT / ( VIN × IIN ) = Pout / Pin
一方、前項で計算した結果より、トータルの損失は、
Ploss = Pc + Psw + Pg + Pcnt = 0.6375W
したがって効率は、
η = Pout / Pin = 5W / ( 5W + 0.6375W ) = 0.887
効率は88.7%と計算することができました。
ノイズ対策
スイッチングレギュレータのノイズ対策の方法としては、
- 基板パターン設計による対策
- 周辺部品による対策
- ICの機能による対策
- 電子部品以外での対策
などがあります。
詳しい内容は以下の記事をご参照ください。
ノイズに対する知識をしっかり身につけておくことで、検証工数を大幅に減らすことが可能になります。
よくある故障モードと原因
DCDCコンバータICを使った電源で、よくある不具合、故障モードとその原因をまとめました。
起動不良
全く動作しない、または一瞬動作するがその後停止してしまうモードです。
ソフトスタート端子が短絡
ソフトスタート端子がGNDショートしていると、内部基準電圧が0Vの状態ですのでスイッチングはフルオフ状態に維持されます。
ソフトスタートコンデンサのショート破壊のほか、ESDなどでIC内部でGNDショートしている可能性も考えられます。
フィードバック電圧の上昇
出力、またはフィードバック端子が別の電源ラインにショートし、フィードバック端子電圧がIC内部の基準電圧より高くなってしまった場合、スイッチングはフルオフ状態に維持されます。
周波数設定端子の短絡
スイッチング周波数を設定する端子がGNDまたは電源ラインにショートすると、スイッチングが停止する場合があります。
これは、ICの内部回路によるため、ICごとに挙動は変わります。
ラッシュ電流
ソフトスタート時間が短く、出力コンデンサ容量が大きい場合、過電流検知レベルに達した状態で起動します。
ほとんどのDCDCコンバータICの場合、ヒカップ機能が搭載されていますので、一定期間過電流を検知すると停止し、一定期間オフした後リスタートという動作になります。
ラッチオフ
ショットキーダイオードがショートしている場合など、動作を継続すると危険なフェール状態を検知すると、ラッチオフして保護する機能を持ったICもあります。
起動時に一瞬だけ動作して、その後停止するような挙動の場合はラッチオフの可能性があります。
出力電圧が上昇する
出力電圧が設定した電圧以上に上昇してしまうモードです。
フィードバック抵抗の異常
出力電圧の分圧抵抗の実装定数のミスによる分圧値の変化、下側の抵抗がGNDショート、上側の抵抗がオープン、などによりフィードバック電圧低下により、出力電圧が上昇してしまいます。
最小オン時間による電圧上昇
DCDCコンバータICは、ほとんどの場合最小オン時間が設定されています。
これにより最小DUTYが制限されます。
最小オン時間に達した場合、スイッチングサイクルをスキップしてDUTYの制限を拡張する制御が入っていれば問題ないのですが、特に古いICではスキップしないものもあるため注意が必要です。
定常状態では問題なくても、入力電圧が過渡的に上昇する場合や軽負荷時に起こることがあります。
DUTYが最小になる条件や無負荷条件でも出力電圧が上昇しないことを確認しておきましょう。
出力電圧の低下
出力電圧が設定した電圧より低くなってしまうモードです。
フィードバック抵抗の異常
①出力電圧の分圧抵抗の実装定数のミスによる分圧値の変化による電圧低下
②下側の抵抗がオープン、上側の抵抗がショート、により出力電圧=FB電圧となる
などが考えられます。
ソフトスタート端子電圧の異常
ソフトスタート端子がハーフショートすることで、ソフトスタート電圧が上昇し切らず、出力電圧も中間値から上がらなくなってしまいます。
過電流検知による停止
コイルの異常によりインダクタンス値が低下してしまった場合や、直流重畳を考慮して設計していなかったために、想定よりリップル電流が大きくなってしまい、過電流検知レベルに達して電圧が上昇しないというモードです。
ノイズによる誤動作
電流モードの場合、電流センス端子にノイズが重畳することで、スイッチがオンした瞬間にオフしてしまい、電圧が上昇しない場合があります。
スイッチング周波数の異常
設定した周波数で動作しないモードです。
周波数設定端子の異常
周波数設定用抵抗値の実装ミス、オープン、ショートなどにより、設定した周波数で動作しなくなります。
外部クロックを認識できない
周波数外部同期機能がある場合、外部からクロックを入力しますが、ノイズ対策のためクロックにフィルタを入れ鈍らせる場合があります。
あまりにも鈍らせすぎると、ICがクロックのエッジを正常に検出できず、正常な周波数で動作できないことがあります。
外部同期範囲の設定ミス
外部同期の周波数範囲は、大抵の場合、自己発振周波数によって制限されます。
外部同期可能な周波数範囲を外れたクロックが入力されると、外部クロックのエッジか自己発振周波数のエッジのどちらで動作するか分からなくなるため、異常周波数で動作してしまいます。
サイクルスキップ
最小オン時間に達した場合、大抵のICの場合次のスイッチングサイクルをスキップして周波数を低下させ、オフ期間を拡張します。
入力電圧が上昇してDUTYが小さくなった場合や軽負荷時に起こりやすくなります。
この機能自体は出力電圧の上昇を防ぐために必要なものですが、周波数低下によりノイズの問題が出る場合があるため、注意が必要です。
異常発振
単純な位相余裕不足以外にも、下記のような異常発振モードがあります。
サブハーモニック発振
電流モード特有の発振モードです。
DUTYが50%以上で発生します。
IC内で発振を防ぐための「スロープ補償」が施されているのですが、コイルのインダクタンス値に制限があります。
リップルノイズを減らそうとしてインダクタンス値を大きくすると発生しやすくなります。
スロープ補償とは?DCDCコンバータのサブハーモニック発振を対策
不連続モード
負荷電流が少なくなると、コイル電流が出力から入力側に逆流する「不連続モード」になります。
この動作自体は問題ないのですが、スイッチング電源の知見がないと異常発振と勘違いしてしまいます。
不連続モード時の動作波形
ただし、このリンギング波形がノイズの問題を引き起こす可能性があります。
その場合は強制連続モード機能がある同期整流ICを選定してください。