オペアンプ回路の基礎と設計計算の方法
オペアンプ(OPamp)とは、微小な電圧信号を増幅して出力することができる回路、またはICのことです。
反転入力端子と非反転入力端子の2つの入力端子を持ち、その2つの入力電圧の差を増幅して出力することができます。
通常、帰還(フィードバック)をかけて使い、増幅回路、微分回路、積分回路、発振回路など、様々な用途に応用されます。
本稿では、オペアンプの基本的な仕組みと設計計算の方法、オペアンプICの使い方について解説していきます。
オペアンプの仕組みと動作原理
オペアンプは2つの入力電圧の差を増幅します。
非反転入力電圧:VIN+、反転入力電圧:VIN-、出力電圧:VOUTとすると、増幅率:Avは次の式で表されます。
この増幅率:Avは、開ループの状態での増幅率なので、オープンループゲインと呼ばれます。
ほとんどのオペアンプICでは、オープンループゲインが80dB~100dB(10,000倍~100,000倍)と非常に高いため、少しでも電圧差があれば出力のHiレベル、Loレベルに振り切ってしまいます。
下図は、VIN+を2.5Vにして、VIN-をスイープさせた時の波形です。
ゲインが高いため、Hi / Loを出力するだけのコンパレータ動作になっています。
したがって、通常オペアンプは負帰還をかけることで増幅率を下げて使います。
オペアンプの基本回路
負帰還をかけたオペアンプの基本回路として、反転増幅器と非反転増幅器について解説していきます。
反転増幅器
反転増幅器とは、入力と出力の位相を逆に(180°ずらす)して振幅を増幅する回路です。
反転増幅回路は、以下のような構成になります。
反転入力端子側に入力波形(V1)が印加され、出力と抵抗を介して接続(フィードバック)されます。
非反転入力端子は定電圧に固定されます。
動作波形は下図のようになります。
条件は、V1=2.5V±0.2V、V2=2.5V、R1=10kΩ、R2=50kΩです。
入力(V1)と出力(VOUT)の位相が反転し、V1の振幅:±0.2Vが5倍に増幅され、±1.0Vになっています。
増幅率はR1とR2で決まり、増幅率Gは、
で計算できます。
計算の手順については後述します。
非反転増幅器
非反転増幅器とは、入力と出力の位相が同位相で、振幅を増幅する回路です。
非反転増幅回路は、以下のような構成になります。
非反転入力端子に入力波形(V1)が印加されます。
反転入力端子には、出力と抵抗を介して接続(フィードバック)されます。
動作波形は下図のようになります。
条件は、V1=2.5V±0.2V、V2=2.5V、R1=10kΩ、R2=40kΩです。
入力(V1)と出力(VOUT)の位相は同位相で、V1の振幅:±0.2Vが5倍に増幅され、±1.0Vになっています。
増幅率はR1とR2で決まり、増幅率Gは、
で計算できます。
計算の手順については後述します。
オペアンプの設計計算
オペアンプの設計計算を行うためには、バーチャルショートという考え方を理解する必要があります。
バーチャルショートについて解説した上で、反転増幅器、非反転増幅器の計算例を紹介していきます。
バーチャルショート(仮想接地)とは
バーチャルショートとは、オペアンプの2つの入力が同電位になるという考え方です。
2つの入力が仮想的にショートされているような状態になることから、バーチャルショート、あるいは仮想接地と呼ばれます。
イマジナリーショートという呼び方をされる場合もあります。
バーチャルショートでは、オープンループゲインを無限大の理想的なオペアンプとして扱います。
先述の通り、オープンループゲインは、
と表されるので、2つの入力電圧、VIN+とVIN-が等しいと考えると分母がゼロとなり、したがってオープンループゲインAvが無限大となります。
ほとんどのオペアンプの場合、オープンループゲインは80dB~100dBと非常に高いため、ゲインが無限大の理想オペアンプとして扱って計算しても問題になることはありません。
それでは、バーチャルショートの考え方をもとに、反転増幅器、非反転増幅器の計算例を見ていきましょう。
反転増幅器の計算例
下図のような反転増幅回路を考えます。
計算の手順は下記の通りです。
- バーチャルショートの考え方から、V+とV-の電圧は等しくなるため、V- = 0Vとなる
- R1の両端にかかる電圧から、電流I1を計算する
- オペアンプの入力インピーダンスは高いため、I1は全て出力側へ流れ込む。
したがって、I1とR2による電圧降下からVOUTが計算できる
今回の例では、
I1 = 2.0V / 10kΩ = 200uA
VOUT = -200uA × 50kΩ = -10V
と計算できます。
また、②と③より、
が導かれ、増幅率が下記のようになることが分かります。
今回の例では、G = R2 / R1 = -5倍 となります。
非反転増幅器の計算例
下図のような非反転増幅回路を考えます。
計算の手順は下記の通りです。
- バーチャルショートの考え方から、V+とV-の電圧は等しくなるため、V- = 2.0Vとなる
- R1の両端にかかる電圧から、電流I1を計算する
- オペアンプの入力インピーダンスは高いため、I1は全て出力側から流れ出す。
したがって、I1とR2による電圧降下からVOUTが計算できる
今回の例では、
I1 = 2.0V / 10kΩ = 200uA
VOUT = 2.0V + 200uA × 40kΩ = 10V
と計算できます。
また、②と③より、
が導かれ、増幅率が下記のようになることが分かります。
今回の例では、G = 1 + R2 / R1 = 5倍 となります。
オペアンプの内部回路
動作を理解するために、最も簡易的なオペアンプの内部回路を示します。
入力電圧差によって差動対から出力された電流を増幅段のトランジスタで増幅し、エミッタフォロワのプッシュプルによって出力します。
帰還をかけたときの発振を抑えるため、位相補償コンデンサが内部に設けられています。
LTspiceのシミュレーション回路は下記よりダウンロードして頂けます。
出力のひずみを抑える
ダイオード2つで構成されたバイアス回路は、出力波形のひずみを抑えるために必要になります。
バイアス回路が無い場合、出力段のNPNトランジスタとPNPトランジスタのどちらにも電流が流れていないタイミングがあり、そのタイミングで出力のひずみが発生します。
バイアス回路を追加することで、NPN、PNPの両方に常に電流が流れるようになるため、出力のひずみが発生しなくなります。
ただし、常に両方に電流が流れるため、消費電流が増えてしまうというデメリットがあります。
オペアンプICのデータシートの見方
オペアンプICを使いこなすためには、データシートに記載されている特性を理解する必要があります。
各特性について解説していきます。
動作電圧範囲
動作可能な電圧範囲です。
両電源タイプの場合、±で電圧範囲が示されています(VCCがプラス側、VEEがマイナス側)
同相入力電圧範囲
IN+ / IN-端子に入力可能な電圧範囲です。
前出の内部回路では、差動対の電流源が動けなくなる電圧が下限、上流のカレントミラーが動作できなくなる電圧が上限となります。
同相入力電圧範囲を改善し、VEE~VCCまで対応できるオペアンプを、レール・トゥ・レール(Rail to Rail)入力オペアンプと呼びます。
入力オフセット電圧
IN+とIN-の電圧が等しいとき、理想的には出力電圧は0Vです。
しかし実際には内部回路の誤差により出力電圧を0Vにするためには、わずかに入力電圧差(オフセット)が必要になります。
入力オフセット電圧の単位はmV、またはuVで規定されています。
特にオフセット電圧が小さいIものはゼロドリフトアンプと呼ばれています。
最大出力電圧
出力Highレベルと出力Lowレベルが規定されています。
HighレベルがVCC付近まで、LowレベルがVEE付近まで出力できるものをレール・トゥ・レール(Rail to Rail)出力オペアンプと呼びます。
消費電流
VCC端子に流れる電流です。
通常のオペアンプでmAオーダーの消費電流となりますが、低消費電流タイプのものであればnAやpAオーダーのものもあります。
電圧利得
オープンループゲインの規定です。
利得帯域幅積
オペアンプが動作可能(増幅できる)最大周波数です。
オープンループゲインが0dBとなる周波数(ユニティゲイン周波数)が規定されています。
周波数特性のグラフが示されている場合がほとんどですので、使いたい周波数まで増幅率が保てているか確認することができます。
スルーレート(S/R)
入力の電圧変化に対して、出力が反応する速さを規定しています。
単位はV/usで、1us間に何V電圧が上昇、下降するかという値になります。
スルーレートが大きいほど高速応答が可能となります。
オペアンプを使った回路の例
オペアンプを使った回路例を紹介していきます。
微分回路
微分回路は、入力電圧を時間微分した電圧を出力する回路です。
ハイパスフィルタとして使われたり、三角波をに変換することもできます。
積分回路
積分回路は、入力電圧を時間積分した電圧を出力する回路です。
ローパスフィルタとして使われたり、方形波を三角波に変換することもできます。
ボルテージフォロワ
ボルテージフォロワは、オペアンプを使ったバッファ回路で、インピーダンス変換や回路分離に使われます。
増幅率は1倍で、入力された波形をそのまま出力します。
加算回路
複数の入力を足し算して出力する回路です。
ミキサーなどの用途で使われます。
減算回路(差動増幅回路)
2つの入力の差を増幅して出力する回路です。
別々のGNDの電位差を測定するなどの用途で使われます。
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