よくあるLDOの故障モードと不具合対策
LDOのICを使って電源を設計した際に起こる、よくある不具合、故障モードについてご紹介します。
負電圧による誤動作、破壊
出力に定格を超える負電圧が発生し破壊するパターンです。
IC内部のESD保護素子が破壊するので、故障モードはGND短絡となる場合が多いです。
負電圧が発生する原因は、LDOの出力が基板外部でケーブル等に引き回されている場合に、ケーブルが短絡した場合です。
ケーブルが長くなるほど大きなインダクタンスを持ちますので、誘導電流による負電圧が発生してしまいます。
対策は、電流定格が大きくVFの小さいダイオードを出力-GND間に追加することです。
ICの静電保護素子側に電流が流れないようにすることで破壊を防ぎます。
入出力電圧逆転による回り込み
出力の電荷残り等により、入出力が逆転すると出力FETのボディダイオードを介して出力側から入力側に電流が逆流します。
この時に起こり得る不具合モードとしては、
- ボディダイオードのショート破壊
- 入力側への回り込みによるシーケンス不遵守
などが考えられます。
詳しくは下記記事をご覧ください。
レギュレータやFETスイッチの逆電圧保護の方法と注意点
オーバーシュートによる後段デバイスの破壊
入力電源の急峻な変動や負荷電流の急低下により出力電圧のオーバーシュートが発生します。
オーバーシュート電圧が負荷デバイスの耐圧を超え、破壊してしまうという事例は少なくありません。
車載システムではバッテリ電圧の変動幅、変動スピードが速いためオーバーシュートが大きくなります。
通常状態での変動に対しては応答速度の速いICを選んだり出力容量を増やすことである程度対策が可能ですが、LDOの入力電圧が設定した出力電圧以下の状態から急上昇した場合(飽和からの復帰)の対策は困難です。
飽和からの復帰に対しての対策が施されているICを選定する必要がありますが、種類は限られてくるでしょう。
飽和からの復帰のメカニズムについては下記の記事をご参照ください。
飽和からの復帰時のレギュレータのオーバーシュートに要注意
軽負荷時の電圧上昇
LDOは電流をシンクできませんので、軽負荷、または無負荷時に出力電圧が持ち上がることがあります。
原因は、リーク電流が消費電流を上回ってしまうためです。
リーク電流が増加する高温状態で特に顕著に現れます。
負荷による消費電流を除けば、出力で消費される電流はほとんどの場合フィードバック抵抗のみです。
消費電流を減らすためにフィードバック抵抗の値を大きくした場合に起こったという失敗がよく見られます。
対策としてはフィードバック抵抗の値を下げるか、最小負荷設定用の放電抵抗を設置することです。
軽負荷時の発振
通常、LDOは負荷が軽いほどループゲインが上昇します。
そのため、重負荷時は安定していたのに軽負荷時に位相余裕が不足して発振する場合があります。
発振波形はオシロスコープで長めの時間レンジで見ないと気付けないことが多いでしょう。
下図のように一瞬出力電圧を持ち上げて、長い時間をかけて電圧低下、再びレギュレータが一瞬動作して出力を持ち上げるといった挙動になることが多いためです。
LDOの採用評価をする際は、無負荷時での挙動も確認しておくことが重要です。
安定化容量を追加するなどしても対策できない場合は、発振しない最小負荷電流が常に流れるように放電抵抗を設置する方法もあります。
突入電流による前段電源の低下
起動時に出力コンデンサに流れる突入電流(ラッシュ電流)によって、入力電源が落ち込み、そこに接続されたデバイスが誤動作することがあります。
LDOの出力直近だけでなく負荷デバイスの電源入力側の安定化容量も確認し、大きな突入電流が発生しないか確認しておく必要があります。
負荷デバイス側の設計者が安定化容量を追加したことで不具合が発生した等ということが良く見られます。
容量を削減できない場合はソフトスタート機能を備えたLDOを採用するか、LDOの入力容量を増やして電圧の落ち込みを抑制するなどの対策が必要になります。
フの字特性による起動不良
フの字特性の過電流保護回路を備えたLDOの場合、起動時の負荷電流が大きいと起動しないことがあります。
絞られた過電流検知レベルに引っかかり電圧が上昇しないためです。
詳しい内容は以下の記事をご覧ください。
過電流保護の種類と動作原理